2021.8.24  寝押しのイメージ

眼鏡処方希望で患者Dさんが初診で来院。

ふだんはハードコンタクトレンズ(HCL)装用で左右とも視力1.2。

しかし、50代になり、近くを見るのはコンタクトなし(裸眼)のほうが見やすくなり、コンタクト装用も疲れるようになり…眼鏡はどうかな…と言うのが受診のきっかけ。

 

軽い近視があり、この年齢だと、裸眼で一番焦点が合いやすい程度です。

眼科的には異常はありませんでした。

近くは裸眼で見ることにし、遠用眼鏡の処方を始めました。

しばらくすると…検査スタッフが『眼鏡で矯正視力がしっかり出ません。HCLだと出ていたのですが』

 

HCLの使用状況を聞きました。

連続装用可のHCLだったので、連続装用(ずっと付けっ放し)していたと。

一般にHCLは連続装用と終日(起きている間)装用対応のものがあります。

連続装用可であっても、眼科医の指示のもと、夜勤など限られた仕事の場合に限定すべきで、自己判断で自由に付けっ放しで良いわけではありません。

 

やはり…

『HCLをずっと付けっ放しだったので、角膜(茶目)が押され続けて、角膜カーブがより平坦になってしまっているんです。眼科的に、角膜カーブがフラット(平坦)になると、近視が減る計算(詳細は割愛)になります。

なので、本日測定した近視の程度は、本当の値より低く出ている可能性があります』

Dさん、少し難しそうな顔。

眼球模型を見せながら…

『寝押しのイメージで…HCLで角膜を押すと、角膜は少しのっぺりするんですね。そうすると、角膜がのっぺりすることで、近視が減る仕組みなんです』

『なるほど!寝押しね。わかりました』

その後、『寝押し』っていうワード、懐かし~で盛り上がりました。

 

寝押しとは、布団の敷布団の下に衣服を敷いて、一晩寝て体重をかけることで、再度スカートやズボンのひだや折り目を付けることです。

アイロンより手軽な方法です。

院長が中高生の頃は、学生の毎晩のルーティンだったと思います。

 

我が家では息子の制服のズボンにアイロンを当てるほど、気の利いた母(院長)でもなく、ベッド生活なので脱いだ制服をそのまま着ていたような…

 

『寝押しって知ってる?』息子たちに聞くと

『何それ?知らない』という答え。

現代では死語になっている!?

 

さて、Dさんには、1週間ほど、HCLを中止してもらうことにしました。

再診時、角膜のカーブは前回に比べてややスチープ(急峻)になっていました。

近視も、前回測定時よりやや強めに。

これが本来のDさんの近視度数と角膜カーブ。

スムーズに視力も出て、眼鏡処方に至りました。

 

最近は、ソフトコンタクトレンズ(SCL)が大多数を占めるので、角膜カーブは以前より大きく問題になりませんが、大事な指標ではあります。

 

良く見えるようにする治療の一つに、オルソケラトロジーがあります。

角膜矯正療法と言う意味です。

個々の角膜形状に合わせてデザインされた専用コンタクトレンズを夜間装用することで、角膜カーブをよりフラットにします。

簡単に言えば、角膜の寝押しです。

夜寝るときに、個々にデザインされたHCLをして、朝起きたら外す。

日中は裸眼で過ごせる。

手術のような侵襲はないため、学童児でも受けられる方はあります。

ただし、継続が必須(止めたら戻る)ですし、その都度、角膜カーブに合ったHCLを作成しないといけません。

 

院長も強度近視なので、裸眼ですっきり見えることに憧れた時期もありました。

50代になった今、裸眼で近くが見えることの有り難さを感じる日々です。

近視…眼鏡で見えるんだったら、全然悪い目じゃないですよ!

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2021.7.13 うその病気

日本眼科学会認定、眼科専門医の更新手続きの案内が届きました。

専門医を取得後、5年間で、学会や講習会への出席・眼科雑誌などの課題提出・書籍の執筆投稿などなど決められた単位を100単位以上取得。

眼科医として従事していること。

これらの条件を満たしていれば、更新手続きに進みます。

通常は5年ごとの更新です。

満期は9月30日なので、5年満期までにあと2か月ありますが、院長はすでに4年で100単位以上を取得しているので、早速更新手続きをする予定です。

 

眼科(大体は大学病院とその関連病院)に5年以上従事し、決められた数以上の症例の報告、手術件数、学会発表、論文発表などを達成し、専門医受験資格が得られます。

5年間眼科医として従事していると、そこそこ診療も手術もできるようになってきます。

しかし、専門医試験には、5年間日常診療だけやっていれば太刀打ちできるかと言うと、そういうものでもなく…

5年目までの臨床医は、日々の診療に追われています。

また、大学病院などの専門施設にいると、必然的に専門分野の患者さんが多くなり、患者さんの病気に偏りが生じます。

眼科専門医試験には、眼科学すべての分野の基礎から応用までが出題されます。

単純に知識として覚えればよい基礎問題から、写真(目の色々な部分や検査結果)を見せられ順に解答していく応用問題まで。

専門医受験が決まると、仕事の合間を縫って、机上の勉強。

医師国家試験以来の机上で集中の勉強です。

 

2日間にわたり、東京で実施されます。

1日目は筆記試験。

2日目は諮問です。

筆記以上の緊張、試験官は大学の教授陣です。

 

1日目はまず大丈夫、と臨んだ2日目。

1問目はもう覚えていませんが、恐らく楽勝。

2問目は、手術の器具を見せられました。

これは、何に使用しますか?

○○の手術の時です。

どのように?

(持って)○○のように。etc 次々と質問、解答が繰り返され、クリア。

3問めは、〇歳男性見えない主訴で来院患者(架空)の情報を渡されます。

視力は右眼○○左眼○○、眼圧右○○左○○

『まず何の検査をしますか?』

『○○です』

答えると、その結果を示されます。

眼底写真を見せられます。

『視野はどうですか?』

視野結果を見せられます。

『○○はどうですか?』

『○○です』

思い浮かぶ病名がどんどん否定されていきます。

主訴と検査結果が合いません。

『患者さんは、見えないから診断書を書いてほしいと言ってるんですがね…』

『すみません、書けません…』(泣きそうになっている…)

『先生(当時若輩の私)、これは詐病の症例です。こういう症例に遭遇することも頭において頑張ってください』

 

詐病とは、経済的または社会的な利益の享受を目的として病気であるかのように偽る詐欺行為です。

見えているのに視覚障害者を装ったり、聞こえているのに聴覚障害者を装ったりして、障害年金の受給などを企む人がいるのです。

 

幸い、現在まで、詐病を疑う患者さんに出会ったことはありませんが、今でも印象に残る最終諮問でした。

 

最終諮問が不出来だったので、落ちた~と、落胆して乗った帰りの新幹線。

考えるうちに泣けてきました。

今までで一番悲しい新幹線です。

 

詐病の診断は出来なかった(見抜けなかった)けれど、無事、眼科専門医試験合格のお知らせ。

そこからが本当の眼科医スタートでした(改めて実感)。

眼科医の道は長~い。

ずっと眼科医一筋といえども、発展途上。

 

専門医の更新のたびに、思い出す最終諮問。

今年も新しい眼科専門医たちが誕生します。

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2021.7.6  若さより老い?

高齢者のワクチン接種も順調で、1回目はもちろん、2回目接種終了後の来院も多いこの頃です。

『先生(院長)はどうだった?』

『私は、2回とも全然問題なかったですけど』

『そう?私、その晩熱出たわ。腕も痛かったし』

『副反応は若い人のほうが多いらしいですから、若いってことですよ!』

『そうかしらね~まあ、そういうことにしとこっか』

日々の診療での一コマです。

一日に何場面もあります。

 

50代院長でも、お姉様オバサン(70代)達とラウンドすれば『若いわね~』

(当然、年下ですから)

自分より下の世代からは『若く見えますね~』

(実年齢より若々しく見えるだけであって、若いわけではない)

十分自覚しているオバサン(院長)です。

でも、言われるとちょっと嬉しい。

 

院長自身、『若い子』『若い』を口にすることが多くなりました。

傷の治りで言うと、眼の表面やまぶたのキズの患者さんは日々来院されますが、40歳未満の患者さんは確実に治りが早いです。

年齢に応じて、治癒までの期間は変わります。

子どものキズは、眼に関わらず、治癒までがとても早い。

『若いから大体〇日くらいで治りますよ』

若いを強調してしまう院長です。

 

眼のパーツだけを見ても、加齢による変化は各部位で見られます。

10代20代のキラキラした眼(眼底も)は、若さゆえ。

そして、『老眼』は加齢を感じさせるターニングポイントです。

自覚するかどうかは別としても、一般には、眼科で検査をすれば、40歳以降老眼(調節力の低下)が出てきます。

若く見えていても、文字を読む距離や暗所での見え方などから、年齢が推定されてしまいます。

院長も当然老眼が出てきています。

近くにピントが合いにくくなった40代の患者さんに『老眼です』と言うと、多くは『ショック~』と返ってきます。

それでも、院長自身が体験しているので、その気持ちは若いころよりずっと共感できるようになっています。

『老眼』と言う状態は眼科学的に知っていても、実体験(院長の加齢)が加わると、更に理解が広がります。

医師が自分の専門の病気をすべて体験することはできませんが、診療の経験と誰もが通る加齢性変化により、患者さんの診療により還元できるものとなっています。

 

『若い』は遠き?過去のちょっとした羨ましさではありますが、しがみつきたいものではありません。

ただ、未熟でも、輝いていると思われるのは若さゆえなのかも。

外見は若々しさには重要な要素ですが、内面もそれ以上に重要だということも、加齢とともに気づかせてくれます。

普段接している年長の患者さんたちや、医師や趣味つながりの先輩たち(10歳以上年上)の信条・生活スタイルは、いつもお手本や目標になります。

 

結局、若さより高齢化(将来)に目が向いている院長です。

 

高齢者の性格特性としてレイチャードの5類型

1.円熟型:過去を後悔せず未来に希望を持つタイプ。寛大。

2.ロッキングチェアー型(依存型):現実を受け入れる。物質的、情緒的な支えを与えてくれる人に頼る傾向。

3:防衛型(装甲型):若い時の活動水準を維持しようとするタイプ。老化を認めない。

4:憤慨型(敵意型):老いに対する不満が他者への攻撃となって現れるタイプ。人生の失敗を人のせいにする。

5:自責型:人生を失敗だったと考えてふさぎ込むタイプ。

 

若さは過去のことですが、老いは未来。

円熟した将来に向けて、小さな積み重ねです。

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2021.6.29  ふか~い視力?

大型自動車免許の更新時、深視力検査に合格できなかったと患者(A)さんが来院されました。

 

深視力検査は、内側で棒が前後に動く箱を覗いてスイッチを押す検査です。

箱の中に2.5メートル離れた位置に3本の棒があり、中央の棒が前後に動き、左右の棒と横並びになった時にボタンを押します。

左右の棒との位置ずれを測定する検査です。

目的は、物体の遠近感や立体感の確認です。

大型車は、側・後方確認にミラーを多用するため、距離感や奥行き感が正確につかめないといけません。

眼科的には、両眼視機能の検査の亜型です。

 

院長は普通免許のみなので、実際に検査を受けたことはありません。

家人は、大型免許を持っている(一度も活用なしですが…)ので、更新のたびに深視力検査を受けています。

 

Aさんは45歳。

斜視はなく、眼位は正常です。

両眼視機能の立体視は異常なし。

眼自体に問題はありません。

軽い近視と老眼があります。

近視になったのは30代後半で、運転時眼鏡を使用することも時々忘れるほど。

裸眼視力は右0.3左0.4

眼鏡の視力(矯正視力)は右0.8左0.9。

普通免許の更新は、両眼で矯正視力0.7以上なのでパスはするのですが…

夜間の運転だと両眼で1.2くらいあるほうが安心です。

大型免許なら日常時でも尚更、良い視力が求められます。

 

一通りの診察が終わり、Aさんには、夜間運転にも十分な眼鏡を処方することにしました。

老眼もあるので、処方した眼鏡は運転時に。

それ以外は弱い眼鏡や、裸眼で見てもOKの話をしました。

 

Aさんは、再検査でパスできました。

めでたし、めでたし。

 

 

深視力検査の目的は、良好な矯正視力と立体視の確認なので、深視力検査機が置いていなくても(ほとんどの眼科にはありません)、眼科受診で何が問題かはわかります。

眼位に異常はないか。

斜視や斜位があると、立体視がうまくできないことがあります。

屈折異常(近視・遠視・乱視)があっても眼鏡やコンタクトレンズで適切に矯正されているかも大事なポイントです。

そして、何かの眼の病気があるか否か。

 

深視力検査は練習とか慣れでパスできるという話を聞いたことがありますが、矯正視力と立体視が肝(きも)です。

 

 

日々、大型免許更新のみならず、様々な用途で眼鏡やコンタクトレンズを希望され受診されます。

眼科で処方、正解です。

眼に異常がないかどうかは、とても重要なことです。

病気がなく、単純に屈折異常だけでも、患者さんのライフスタイル・用途によって処方度数が変わります。

どういう時に使いたいか。

何をすることが多いか。

仕事は何か。

性格はどうか(意外に大事!)などなど。

総合して、院長が最終度数を決定します。

病気があれば、視力や視野の程度に応じて、さらに、患者さんの要望に最大限添うよう処方します。

時には、残っている視野をうまく使って見る方法などもアドバイスします(頼りになる視能訓練士たちもお手伝いします)。

 

眼鏡・コンタクトレンズの世界も奥深いです。

今日も、患者さんに見え方の確認をしながら、眼鏡やコンタクトレンズの度数変更をする院長です。

微妙なさじ加減で、見え方の質や疲労感が変わります。

患者さんからの情報も大切。

小さな変化でも遠慮なく言ってくださいね。

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2021.5.11 アイフレイル自己チェック

4月の大きな眼科学会は、ハイブリッド(現地と後日WEB配信)で行われました。

大阪なら日帰りも十分可能なので、久々に現地で聴講しようという予定でした。

通常は、新幹線を使うのですが、今回は1日だけでも話題?の近鉄特急『ひのとり』に乗りたい!

デビュー当時は、大人気で予約も取れない状況だっただけに、早めにネット予約。

時間は新幹線の倍以上かかるので、会場到着時間から逆算して乗車時刻を。

しかし、大阪を中心に新型コロナ患者の急増。

学会臨場感と『ひのとり』より、ステイホームでGW間のWEB配信を選びました。

 

と言うわけで、GWは、PC前で視聴、視聴。

予定もないGWとはいえ、気になる演目を多岐にわたり集中して聞くと、けっこう頭は疲れます。

 

今回も、人生100年時代を見据えた、眼科戦略は、それぞれの病気の分野で、研究発表されていました。

 

『アイフレイル』は、眼の不快感を単に年のせいにせず、視機能の重要性を認識し、問題の早期発見を促すことを目的とした概念です。

早期発見することで、適切な介入(治療)を可能とし、ある程度機能回復させる・進行を遅らせる・緩和させることが期待できます。

元に戻る(正常)ことは難しいけれども、悪化抑制は出来ます。

眼科医にとっては、眼科に受診してもらわないと、診断治療ができません。

 

そこで…『アイフレイル』自己チェック!です。

1.目が疲れやすくなった

2.夕方になると見えにくくなることがある

3.新聞や本を長時間見ることができなくなった

4.食事の時にテーブルを汚すことがある

5.眼鏡をかけていてもよく見えないと感じることが多くなった

6.まぶしく感じやすい

7.まばたきしないとはっきり見えないことがある

8.まっすぐの線が波打って見える

9.段差や階段で危ないと感じたことがある

10.信号や道路標識を見落としたことがある

 

眼科医であれば、上記のそれぞれに予想される病名は浮かびます。

最終的に、単純に加齢によるものの場合もありますが、それは他の病気を除外しての場合です。

どんな健康な目でも、加齢に伴う機能低下は起こります。

日常生活が制限されないよう、早期発見早期治療のお手伝いをするのが眼科医です。

眼からの情報は大きく、見えていた人が見えなくなると、自立機能の低下も引き起こします。

 

緑内障の患者さんには、定期的に視野検査もするので、受診年数が多いほど、回数が多いほど、視野進行速度が正確に出ます。

『この進行具合なら、100歳まで日常生活問題ないですよ』とお話しすると、

『そんなに生きないからいいわ~』と言いつつも、嬉しそうな顔をされる70~80代の患者さんです。

最近緑内障が見つかった90代の患者さんは、まだごく初期。

『この程度で、治療をしっかり続ければ、120歳でも大丈夫ですよ!』

『わし、そんなにまで生きるかな?』と患者さん。

『大丈夫です!120歳まで診せてくださいね』

 

慢性の病気は、元には戻りませんが、悪化しないように現状維持をすることが目標です。

治らないから治療しても仕方がない…では、ないのです。

ご心配なことはご相談を。

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2021.4.20 子供とブルーライトカット眼鏡

先日、眼科医が所属している日本眼科学会・日本眼科医会を始めとする日本近視学会・日本弱視斜視学会・日本小児眼科学会・日本視能訓練士協会の連名で『小児のブルーライトカット眼鏡装用について』の見解が発表されました。

複数の学会が一堂に会して声明を出すのは、大変珍しいことです。

つまり、とても重大だということです。

 

1.デジタル端末の液晶画面から発せられるブルーライトは、曇天や窓越しの自然光より少なく、網膜に障害を生じることはないレベルであり、いたずらにブルーライトを恐れる必要はないと報告されている。

2.小児にとって太陽光は、心身の発育に好影響を与えるもの。

なかでも十分な太陽光を浴びない場合、小児の近視リスクは高まる。

ブルーライトカット眼鏡装用は、ブルーライトの曝露自体よりも有害である可能性が否定できない。

3.最新の米国一流科学誌に掲載されたランダム化比較試験では、ブルーライトカット眼鏡には眼精疲労を軽減する効果が全くないと報告されている。

4.体内時計を考慮した場合、就寝前はともかく、日中にブルーライトカット眼鏡を敢えて装用する有用性は根拠に欠ける。

産業衛生分野では、日中の仕事は窓際の明るい環境下で行うことが進められている。

 

以上より、小児にブルーライトカット眼鏡を推奨する根拠はなく、むしろブルーライトカット眼鏡装用は発育に悪影響を与えかねない。

 

というものです。

それぞれには、検証結果が示された論文(日本語・英語とも)が存在します。

 

ブルーライトが話題になったころ、院長もブルーライト研究会に参加していました。

当時から、ブルーライトは生体の体内リズム(覚醒・睡眠サイクル)に影響することがわかっていました。

睡眠障害を予防するために、就寝時2~3時間前からデジタル機器の使用を控えるのも推奨されていました。

 

その後、巷では、ブルーライトが目に悪いとか、ブルーライトカット眼鏡を装用したほうがいい…と、根拠のないことが常識化しつつありました。

眼科医(および視能訓練士)以外の世界で。

小学生低学年のお子さんが、メガネ店でブルーライトカット眼鏡を勧められ購入される場合も多々あります。

ブルーライトカットレンズを通すと、やや暗く感じる(個人差あり)ので、違和感を感じる人もいます。

院長は、今まで患者さんからブルーライトカット眼鏡の是非を聞かれると、推進派でない旨・自分も普段装用していない旨を伝えていました。

仕事中は、電子カルテを使用しますが、『20分20秒20フィート』の法則(20分画面を見たら20秒間20フィート以上離れたところを見る)をすれば、眼精疲労を予防できます。

 

科学・医学は進歩するゆえ、変化します。

その時は、正しかったことも、新しい事実が見つかり、正しくなくなることも多々あります。

それを受け入れていくのが、科学・医学です。

私たち臨床医(患者さんを直接診る医師)も、最新の根拠に基づいた事実を知り、正しく患者さんに伝えるために、勉強を続けています。

 

知人から聞いた治療法や巷の大衆向けの治療(非医師や専門外の医師)が確立されているなら、既に、私たち専門医は当然その治療法を行っていますし、保険適応にもなっているはずです。

エセ医学に騙されないためにも、大事なことは発信していこうと思います。

 

休診日、ひとりで農業センターへ。

生まれて間もない仔牛を見、特製アイスを食べ…

それだけで、明日からの気力を充電できます。

ちょっと、太陽光を浴びてみませんか?

 

こちらもご覧ください

ブルーライト in トーキョー

ステイホームで見すぎちゃう

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2021.4.6  頭を打ったら?

久しぶりに、映画を見てきました。

『ミナリ』

2021年アカデミー賞6部門にノミネートされた映画です。

1980年代、移民韓国人一家が、職と住居を転々としながら、定住地を求めてアメリカ南部にやってきます。

広大な土地で農業をして成功したいという夢に対し、現実は大変厳しく、様々な困難が襲いかかります。

絶望するも這い上がり…を繰り返し、一生懸命生きる移民一家。

派手さはないものの、余韻が残る映画でした。

 

その後、もう少し韓国人主役で見たいと思い検索。

最初にヒットしたのは『冬のソナタ』

2002年に韓国で、2003年に日本で放映されたテレビドラマです。

主人公のペ・ヨンジュン(ヨン様)に日本女性も熱中し、韓流ブームの走りと言われています。

が、ヨン様の顔は知っていても、当時は全く興味がなく、ドラマも見たことがありませんでした。

試しに…と、ネット配信で視聴してみると…

ハマりました。

ヨン様に。

ヨン様の笑顔に。

ストーリーは恋愛もので、あり得ない設定の連続です(院長、やや冷めた目で見ています)。

しかし、集中して全20話を見ようとするので、常にヨン様が脳裏に浮かび、ことあるごとにドラマの切ないバックミュージックが流れる日々。

 

セリフが割とゆっくりなのと、会話に同じ単語が出てくるので、字幕と合わせて、なるほど~

名前の後に付けるナとかヤとかは、親しい間柄で呼ぶ。

アラッソ=わかった

キオク=記憶(日本と同じ音) などなど。

小学生の時に、英語の単語(机とか鉛筆とか)を少しだけ覚えたときの嬉しさに似ています。

 

さて、クライマックス。

ジュンサン(ヨン様)は、ある日、室内で倒れて病院に運ばれます。

検査の結果、医師から、慢性硬膜下血腫で、血液が眼球を圧迫している危険な状態だと告げられます。

以前の事故で頭を打ったことが原因で。

このあたりから、ストーリーから外れて眼科医として突っ込みたくなった院長です。

 

『時々目がかすむのも…?』ジュンサン

『おそらく、眼球を圧迫しているのでしょう』医師

『手術すれば治るのですか?』ジュンサン

『手術したとしても、失明などの後遺症が出るでしょう』医師

そして、予断を許さない状態にも関わらず、アメリカへ渡航し手術を受けます。

数年後、帰国したジュンサンは、失明していました。

 

『慢性硬膜下血腫』は、高齢者に多く、覚えていないような軽度の打撲を数か月前に起こし、脳の外側に血がたまる病気です。

頭が痛いとか、ぼんやりする、手足がしびれる、物忘れをするなどの症状がゆっくりと現れ、進行します。

手術は血種(血のたまり)を除去すればよく、術後成績も良好です。

失明って…あり得ない!

 

一方、脳腫瘍では、原発性・転移性とも視神経を圧迫し、残念ながら失明に至ることもあります。

また、眼単独の腫瘍もあります。

視力という機能を残すことは大前提ですが、生命に関わる場合、眼球・視神経などの部分的なものより、生命を優先させることもあります。

病院勤務時代は、両眼とも眼腫瘍で摘出した患者さんや、乳がんの脳転移で失明した患者さんなどなど、悲しい思い出もたくさんあります。

 

最後のシーンで、失明したジュンサンを演じるヨン様。

家の中は、壁をたどり歩数を数えて進む…歩き方をしています。

外出時は白杖なしでいいの?

視覚障害者用補装具適合判定医師である院長としては、気になる点色々…

 

約20年遅れての冬ソナ。

若かりしヨン様をたっぷり堪能しました。

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2021.3.9 眼科もポリファーマシー

患者さんのお薬手帳を確認すると、薬の多いことにびっくりすることがあります。

お薬は、高齢になるほど、増える傾向にあります。

病気の種類が増えるからです。

それぞれの病気に対して、複数の種類の内服薬が処方されます。

都内の75歳以上の通院高齢者を対象に調査したところ、5種類以上の薬を処方された人は64%でした(東京都健康長寿医療センター研究所)。

眼科の患者さんでも、掌にいっぱいになるほどの量を毎回飲んでおられる方がいます。

『薬だけでお腹いっぱいになるわ~』

確かに…

 

多くの薬を併用することで、同じような薬が重複していたり、薬物間の相互作用で副作用がでたりと、身体に悪影響が出ることを『ポリファーマシー』と言います。

高齢になると、認知機能の衰えで、薬をきちんと内服できなかったり、薬の代謝分解機能の低下から、最近は多剤併用の見直しが注目されています。

医師・薬剤師・患者さんの相互理解があって、減薬が実現するのですが、減薬しても老人ホーム入居者の認知機能は維持できたとの報告もあります。

 

眼科でもっぱら処方するのは点眼薬です。

眼科でも、時に、驚くような多剤点眼薬が処方されていることがあります。

 

以前、往診を頼まれた施設入居の認知症の患者さん。

出されていた点眼薬は、抗生剤、炎症を抑えるステロイド剤、炎症を抑える非ステロイド剤、ドライアイの点眼薬2種、眼精疲労の点眼薬2種。

患者さんは、白内障の手術をした後、施設を転々とされていたようで、施設前医からの申し送りのごとく何年も同じ点眼薬を処方されていました。

当の患者さんは、自分がいつ白内障の手術を受けたかも記憶にないくらい。

スタッフは、7種類の点眼薬を、忙しい介護の合間にさしていました。

一日に何種類も何回もさすので、眼瞼は荒れ、めやにも出ていました。

同じ抗生剤を何年も使用していたので、耐性菌(抗生剤に効かない細菌)の有無を確認。

検出された細菌にターゲットを当てた別の抗生剤の点眼薬を処方し、他の点眼薬は全て中止。

すっかり治癒しました。

その後、点眼薬は使用しなくても特に問題は起きていません。

餅は餅屋、目は眼科に!

 

点眼薬をしっかり効果的にさせるのは3剤まで、と考えられています。

点眼薬と点眼薬の間は5分以上空けるのが望ましいので、2剤でも、うっかりしていると忘れてしまうことがあります。

また、種類が多くなることで、薬剤によるアレルギーを起こしたり、まぶたの荒れを起こしやすくなります。

 

緑内障の点眼薬も、進行の程度によっては、多剤併用になっていきます。

しかも、長期にわたり、点眼するので、合併症も出やすくなります。

現役世代も多いので、点眼と点眼の間をしっかり空けると、けっこうな仕事になってしまいます。

そこで、近年では、次々と合剤(2成分が1本に混入)が主流になってきました。

現在では、緑内障点眼薬の主要5成分が3本でカバーできます。

 

多剤併用は、他の病気にも当てはまります。

気になることを一度にカバーしようとすると、何種類もの点眼薬が必要になります。

優先順位をつけて、点眼薬の種類を決めるべきだと考えています。

眼科医の処方する点眼薬は、頓服みたいな何か起こった時だけの指示のものは原則ありません。

1日何回を継続してこそ効果の出るものばかりです。

 

最小の薬で最大の効果を!

最低の眼鏡(コンタクト)度で最高の視力を!

最高のコンディションで最高のパフォーマンスを!

当院のモットーです。

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2021.3.2 グリーンにライトアップ

明日はひな祭り。

クリニックの受付には、院長と同い年ながら、年を取らない美しいお雛様とお内裏様が、患者さんをお迎えしています。

 

さて、来週3月7日から13日は、2021『世界緑内障週間』です。

日本緑内障学会では、緑内障の認知と啓発に向けて、2015年から各地のランドマークをグリーンにライトアップする「ライトアップ in グリーン運動」を、世界緑内障週間に合わせて展開してきました。

当初は、公共施設や大きな病院でしたが、今年は、一般の医療機関へも参加呼びかけがありました。

緑内障学会員の当院も参加表明。

3月7日から13日は、当院の花壇の木々がグリーンにライトアップされます。

当院の花壇のライトアップは、11月後半からクリスマスバージョンを、その後オーナメントを外して2月初旬まで実施しています。

花壇の花々は年中、季節に合わせてアレンジされています。

3月のイルミネーションは、特別な1週間です。

 

ライトアップ色のグリーンは、当然、緑内障の緑に起因します。

白内障は、かなり進行すると、瞳が白っぽく見えることから『白』がつくのだろうと想像できますが、緑内障の『緑』は?

なかなか、想像がつきません。

 

遡ること、紀元前4~5世紀頃に古代ギリシャのヒポクラテスがある目の病気を「地中海の海の色のように青くなり、やがて失明状態になる」と記述しています。

これは、急性緑内障発作の症状と考えられます。

隅角が狭い人が、突然、眼圧の急上昇をきたし、角膜が膨隆・浮腫を起こします。

その目を診察するときに、透明性を失った角膜を通して暗い眼底を見るので、目は青緑に見えたのではないかと考えられています。

西洋人の青い瞳がゆえの記述だと思われますが、描写はきれいだけれど、とっても怖い病気です。

 

急性緑内障発作は、現代でも発症します。

元々隅角(ぐうかく)が狭い人の隅角が閉塞することにより、急激に眼圧が上昇、眼痛・頭痛もひどく、失明することもあります。

遠視の強い人は、隅角が狭いことが多いので、要注意です。

眼科医による隅角検査で、発作が起こりやすいかどうかわかりますし、もし起こりやすい傾向があれば、対処法はあります。

隅角が狭かったり、閉塞していたりすると、禁忌となるお薬や検査があります。

 

さて、40歳以上の20人に1人が罹患しているとされる(多治見疫学調査)緑内障は、日本人の中途失明原因疾患の第1位となっています。

日本人の多くは、眼圧が正常範囲内で隅角が広い(前述の緑内障発作は起こさない)正常眼圧緑内障です。

40歳過ぎたら、緑内障の定期検診をお勧めします。

近視はリスクが高まるので、近視の強い人は40歳以下でも検査をお勧めします。

 

初期の自覚症状はほとんどないため、気付いた時の受診でかなり進行していた!という状態で見つかることもあります。

緑内障の診断技術や治療法の進歩により、早期(自覚症状がない時期)に発見し治療を継続すれば、失明に至る可能性は大幅に減ってきています。

治療はしつつも、視野・視力に自覚症状がないまま一生を送れるように!が、眼科医の目標です。

 

そんな思いの『ライトアップinグリーン運動』です。

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2021.2.16 まぶしいヘッドライト

夜の運転時、ヘッドライトがまぶしい!

そう訴えられる患者さんは少なくありません。

目の病気が原因で、夜間の運転時にまぶしさを感じることはあります。

代表的なのは、白内障です。

多くは加齢によるものですが、外傷やアトピーなどでも起こります。

もともと透明なレンズ(水晶体)が濁ってくる病気で、濁りの程度や部分により入ってくる光の方向が広がり、目の奥(網膜)にきれいな像が映りにくくなります。

 

次に、ドライアイです。

目の表面(角膜)を覆う涙のカバー力が悪いため、表面が凸凹になることで光が散乱しやすくなります。

目の乾きの自覚もあるため、ショボショボします。

また、ある時点(瞬間)の視力は良いのですが、凝視していると目の表面が乾いて視力が低下してくるのも特徴です。

 

緑内障も、眼圧がある程度高くなると、まぶしさを感じます。

また、視野欠損がある場合も、かすむ感じが起こります。

 

コンタクトレンズやメガネが適切な度数でない場合もあります。

特に、中年以降(院長世代です)やデスクワークで、やや遠方視力を落として日常のコンタクトやメガネを使用している場合は、夜間運転用にコンタクトの上からの補正眼鏡や運転に特化した眼鏡をお勧めします。

 

他にも、まぶしくなる病気は色々ありますが、その人に目の病気があるのか、あればどうするか、を診るのが眼科医です。

 

とはいうものの、最近の車のライトはまぶしくなったように思います。

LED化が進んだことも原因のようです。

LEDによってライトの色温度が高くなり白く見えます。

若かりし頃、ブンブン飛ばしていた時代の車は、やや黄色がかったハロゲンランプでした。

 

ハイビーム推奨もまぶしさを感じやすくなっています。

ハイビームにすることで遠方の歩行者などを早期発見でき、事故を回避できる可能性が高まった報告があります。

とはいうものの、ハイビームはまぶしい。

光を直視しないように。

安全な範囲で、視線をわずかに左下に向けることで、まぶしさが緩和した報告もあります。

 

また、対向車が近づいてきたとき、後続車に近づくときにはロービームに切り替えを。

相手にも光を直撃させないように。

 

院長も、若いころは、夜間の通勤(病院からの行き帰り)や夜出発のドライブなど、全然問題なかったのですが、近年は夜間の運転はほとんどしません。

仕事柄1日中眼を酷使。

更にストレスをかけたくないと思うのは、やはり加齢!?

夜は、身体(眼も)も心も明日の活動のために休んで充電する時間です。

高齢者の患者さんの多くが、昼だけの運転にしているのは、無意識の生体防御反応かも。

 

それでも、夜間運転をしないといけない業種の方々もたくさんいます。

夜間は、昼間より眼も神経も疲れやすくなります。

『まぶしい』が気になるようであれば、目の病気の有無も確認をお勧めします。

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