2025.4.15  運転外来

緑内障が専門(博士論文は緑内障)なので、地域のかかりつけ医でありながら、緑内障の患者さんは経年的に増加していきます。

長い人は、大学病院時代から30年以上。

開業して以来ずっと経過を診ている患者さんも多く、一生のお付き合いそのものです。

 

緑内障は、目の神経が主に眼圧によって傷つき、その結果視野欠損や視力障害が生じる病気です。

日本人の40歳以上では約20人に1人が緑内障という疫学調査の結果を見れば、40歳になれば一度緑内障の検査を受けたほうが良いです。

特に強度近視や家族歴ありの場合はリスクファクターです。

機器の進歩により、ごく早期の緑内障や緑内障グレーの状態も発見診断することが出来るようになりました。

 

中期・後期で診断、もしくは中期・後期になってくると、視野検査でも自覚するような視野欠損が出てきます。

視野検査では見えない部分は黒くなりますが、実際には、視野欠損はその部分が黒く見えるのではなく、なんとなくぼやけたように見えるのです。

しかも、片眼で見えない部分があっても、もう片眼で見えると、脳が処理して両眼では視野欠損がないように見えてしまいます。

このため、片眼が悪くても気が付かないことが多いのです。

 

中期・後期でも視力は保たれていることが多いので、自動車の運転をされる人がほとんどです。

眼科医としては、視野も重視し、運転時の注意すべき箇所をお話ししたり、時には返納を勧めます。

見えていると思っているけれど、意外と車を擦ったり、ひやりとした経験をしたりすることは多いようです。

 

緑内障で上方視野欠損があると、信号の見落とし特に近い距離で交差点が連続してある場合、向こう側の信号を見ていて手前を見落とすなどの危険があります。

また外側に欠損が及ぶと、飛び出しに対応できない場合もあります。

下方視野障害は、手元のメーターなどがすぐに見えない場合があります。

 

網膜色素変性症という病気は暗いところで見にくくなる病気ですが、徐々に周辺から視野が狭くなっていきます。

視力が良い場合、周辺の視野の狭まりに気づかないことが多く、脇からの飛び出しや変化に対応できなくなります。

 

脳梗塞など脳の病気、脳腫瘍などの病気でも視野に影響を及ぼすことがあります。

 

運転免許は視力だけで更新できるので、視野は不問にされています(特別な場合を除く)。

 

普段の診療では、視野欠損が運転に支障を及ぼす可能性のある患者さんには随時お話をしています。

 

そして…ついに名古屋市立大学付属東部医療センター眼科でも運転外来が始まりました。

全国4番目、東海地方初です。

緑内障などで視野に異常がある人の運転能力をドライビングシュミレーター(模擬運転装置)を使用。して判断できるようになりました。

 

車を発進すると、交差点や信号があったり、車や人が横から出てきたりなどいろんな場面に出くわします。

運転中どこに視線が向いているかを追跡記録されます。

その結果から医師が運転時に気を付けるべき具体的なアドバイスをします。

 

疑似体験はすでに昨年の学会で院長も体験。

今年の学会でも再体験を申し込みました。

視力視野が正常でも加齢による変化はあるはず。

体力知力気力に自信があるつもりの院長でも、あくまで同年代に比べて…と戒めも必要。

運転能力も然り、病気があればなおさら。

自分の視野と運転能力の関係を理解するために運転外来は有用と考えます。

 

運転外来は主治医の紹介状が必要です。

 

こちらもご覧ください

2024.6.11  運転止める?続ける?

砂嵐の運転

 

カテゴリー:クリニックに関すること 健康 眼に関すること

2021.12.14  転ばぬ先の…

先日12月12日の中日新聞社会面は『ホームドア』について。

 

ホームドアとは、転落防止のためにホームに設けた壁や柵のことです。

車両扉と連動して開閉します。

1981年に開業した神戸新交通ポートアイランド線が初めてとのこと。

そういえば、院長も神戸のポートアイランドが学会会場だった時に、初めてホームドアを見て、ひどく驚いたものでした。

『都会だわ~近未来だわ~』などと。

当時は、岐阜県在住で、路面電車が走っていた頃。

ホームドアどころか、電車が来ると道路に入り乗車していました。

 

国土交通省によると、2019年現在、全国9465駅のホーム19951か所のうち、858駅の1953か所にホームドアが設置されているそうです。

国の目標、2025年までに3000か所設置。

しかし、一駅当たり数億から十数億のコストがかかる。

そのため、東京・大阪・名古屋の3大都市圏を対象に、乗車運賃に1回あたり上乗せ10円以下を想定、可能にするとのこと。

 

確かに、新幹線でさえ、主要駅には設置されていますが、こだまクラスの駅だとほとんど設置されていません。

名鉄や近鉄も昔と変わらず。

地下鉄桜通線・東山線・名城線や、あおなみ線は全駅完備。

大都市のように乗降客が多い駅ほど、より早急なホームドアの設置を望みます。

 

ホームドアがなくても、健常者が落下することは稀ですが、視覚障害者にとっては、危険にさらされる確率が高くなります。

視覚障害者のホームからの転落事故を耳にするたびに、胸が痛みます。

今期の記事にも、転落した女性のインタビュー記事がついていました。

階段を昇りながら、駅のアナウンスで、電車が来ていると勘違い。

西日でまぶしく、電車に乗ろうとホームから足を踏み外し転落。

その後に来た電車に衝突。

この女性は『網膜色素変性症』

視野は周辺からどんどん狭くなり、最後は、ほんの中心部分だけの視野になります。

視力も徐々に低下し、ぼんやりと見えるくらいから、失明に至る人まで様々です。

まぶしさを感じやすいこと、暗いととても見にくい(見えない)ことも特徴です。

 

当院の網膜色素変性症の患者さんたちとのお付き合い(診療)も長くなってきました。

お話を聞くと、やはり、通勤が一番大変のようです。

ラッシュ時の階段の昇降、電車やバスの乗降。

人の多さや駅の明るさなどなど。

フレックスタイムの適応是非や白杖(せめて通勤時だけ)携行などを考えています。

 

テレビドラマ『恋です!』を患者さんたちが見ているわけではないけれど、以前よりも白杖のお話をしやすくなったように思います。

先日、地下鉄で隣席の白杖の青年。

さっと、リュックから、スマホを出して、画面見ず(見えない)に操作。

音楽を聴いていたのか、SNSをしていたのか、楽しそうでした。

 

日本臨床眼科学会は、今年は会場とWEBで。

『会場の福岡行きたかったな~』の思い叶わず、WEBで視聴中。

視覚障害・ロービジョンに関わるコースももちろん視聴。

 

『視覚障害』とアプリで検索すると、色々あります。

試して知ることも有意義です。

 

『一般の人にも関心を!』

地域かかりつけ医として、『小さな草の根運動!』(自称)です。

 

 

 

カテゴリー:眼に関すること

2019.9.3  運転免許の落とし穴

高齢者の自動車事故、あおり運転など、自動車事故に関するニュースを聞かない日はありません。

 

普通運転免許取得の適合視力の条件は…

『両眼0.7以上、かつ一眼でそれぞれ0.3以上、又は一眼の視力が0.3に満たない方、若しくは一眼が見えない方については、他眼の視野が左右150度以上で、視力が0.7以上であること』(警視庁)とされています。

 

当院でも、免許の更新案内が来ると、『視力は大丈夫か?』『メガネはあっているか?』『メガネを作って行った方が良いか?』などと相談に来られます。

単純に、メガネで矯正できる場合は、処方。

『更新の時だけでなく、運転時はいつも装用してくださいね』と念押し。

『メガネでは無理です…眼の病気の治療をしましょう』更新を断念してもらう場合もあります。

時には、『認知症疑い』(当院でも認知症テスト実施します)となり、専門医を紹介することも。

 

さて、眼科医が危惧しているのは、両眼0.7以上でも、視野障害のある患者さんです。

例えば、緑内障や網膜色素変性症などで、視野狭窄が進行する患者さんです。

眼科医としては、出来れば運転は避けた方が…と思う患者さんでも、両眼の中心視力があれば、免許更新は出来てしまいます。

極端に言えば、まるい小さな筒(直径1センチくらいの)を目に当てて、見ているような状態でも、免許更新は可能です。

 

そこで、最近、眼科で話題になっているのが、ドライビングシュミレータ。

先日の研修会では、実物を見ることが出来ました。

画面に道路や、信号・標識などが出てきて、ハンドルを握っている自分は、実際に運転している感覚になります。

途中、歩行者が飛び出してきたり、車がわき道から出てきたり、停車車両があったり、予測不可能な出来事が起こります。

運転者の目がどこを向いているか、追跡されます。

事故が起こったり、ひやりとした場面などと、視野計による視野欠損部位結果との対応により、自身の運転を省みることが出来ます。

例えば、緑内障で上方視野が広く欠損していると、標識・信号を見落とす恐れがあります。

中心下方の欠損があると、左右からの急な飛び出しへの反応が遅れる恐れがあります。

視野欠損の進んだ重度の緑内障患者さんは、正常な視野を持つ人と比べて、およそ3倍の確率で交通事故を起こすという報告もあります。

 

自動車はとても便利なものですが、自分の視野欠損がどの程度あるかを自覚して、慎重に運転してもらいたいです。

眼科医は、『眼科的には運転はお勧めしない』場合も含め、助言しかできません。

運転免許試験場で更新出来たら、あとは自己責任です。

『ヒヤリ』とすることがあれば、視覚・聴覚や認知機能・運動機能に問題があるかもしれません。

やり過ごさずに、クリニックを受診してください。

 

ちなみに、東京の西葛西井上眼科病院では『運転外来』が開設されました。

ドライビングシュミレータを使用して、自分の運転の確認、眼科医からの助言が得られます。

 

近い将来、運転免許の取得・更新もAI主導になるかもしれません。

視力以外の要素も加味し解析して、『更新可』『更新不可』と、AIから言い渡されるかも?

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