2023.9.12 目と性感染症

梅毒罹患者が増加というニュースをよく耳にします。

眼科と関係ある?

目にも性感染症は起こります。

 

性感染症により眼症状が起こる主なものは

淋菌

クラミジア

梅毒

HIV

 

患者さんの受診のきっかけとしては

1.既に性感染症を診断されており、それに伴う(疑う)眼症状が出た。

2.たまたま目に自覚症状が出たため、眼科受診をして性感染症が発見された。

 

1は、他科からの紹介で院内眼科に受診と言うパターンが多いです。

梅毒やHIVの場合、全身の症状も強く、視力低下や目の奥(網膜や視神経)の症状も強いことが多いので、一般に入院治療となります。

大学病院では、高齢の梅毒の患者さんを何人か診ました。

長い年月をかけて、身体中を蝕んでいく様子に、新米眼科医は身を震わせたものです。

 

また先天梅毒では特有の三兆候(歯・難聴・目)が見られます。

 

地域のクリニックにも性感染症の患者さんは稀に来院されます。

クラミジアによる結膜炎は、以前の日本ではトラコーマとして猛威を振るっていました。

トラコーマは、角結膜(白目茶目)にかなりひどい瘢痕が起こり失明に至る病気です。

衛生状態の悪い国(発展途上国)では発生しています。

日本では現在ほとんど見られません。

 

同じクラミジアが原因でも、違う型で起こる性感染症由来のクラミジアの患者さんは来院されます。

ほとんどは、充血・めやに。

めやには、やや粘っているけれどすごくべたべたでもない。

まぶたの裏には濾胞(ぶつぶつ)があります。

明らかに自分で性感染のことを口にされない限りは、アレルギーとも細菌感染とも考えられるので様子を見ます。

治療に反応しなかった場合は、クラミジア結膜炎を疑い検査・治療をします。

本人に自覚がある場合はいいのですが、そうでない場合にお伝えするのは、少々ためらいます。

しかし、ちゃんと治るので最後まで治療に専念してほしいものです。

 

また、母親からの産道感染によって新生児に起こるクラミジア結膜炎もあります。

充血・目やにが主症状です。

 

淋菌性結膜炎は、膿様の目やにがすごい!

教科書で見た写真が忘れられません。

20年くらい前、生後数日の赤ちゃんが目やにで受診されました。

教科書通りの特徴的な目やに・結膜炎!

産道感染による新生児の淋菌性結膜炎です。

新生児の場合、治療が遅れると角膜穿孔(茶目に穴が開く)し失明することもあります。

母体も安定しないため毎日往診。

穿孔しないで~と祈りながら治療。

幸い完治となりました。

淋菌性結膜炎(培養でも確認)ということをお話ししないといけません。

母親に覚えがなく…ということは…

赤ちゃんが生まれておめでたいはずの家庭に嵐が起こりました。

性感染症はひとりでは起こらない。

誰かを知らないうちに感染させています。

 

性感染症のニュースを見るたびにあの赤ちゃん(唯一の淋菌性結膜炎患者さんです)を思い出します。

勉強させてもらった貴重な一症例を忘れることはありません。

 

 

 

カテゴリー:眼に関すること

2022.9.6 新型アデノウイルス

新型コロナウイルス感染症が確認されてから、12月で丸3年に。

次々に変異株が現れ、日本でも第7波に至っています。

一時より、新型コロナ関連のニュースは少なくなったものの、まだまだ熱い毎日。

 

さて、眼科領域でも、新型ウイルスの話題が熱いです。

眼科医が最も注意しなければいけない結膜炎は『はやり目』

伝染性が強いので、学校伝染病にもなっています。

充血や目やにが主です。

その他、涙目とか異物感など。

上記の症状を訴えて患者さんが来院されたら、速やかに眼科医が診察します。

目やにも、細菌とウイルス・アレルギーでは性状が違います。

結膜(白目)の赤味具合はどうか、角膜(茶目)に変化はないかなどを診ます。

いつから?

発熱は?

耳前リンパ節の腫れは?

周りで似たような人は?

はやり目は、アデノウイルスが原因の結膜炎です。

アデノウイルスの型によって『流行性角結膜炎』と『咽頭結膜熱』(こちらは学校伝染病)があります。

風邪症状が強い(熱やリンパの腫れ)場合は、先に小児科や内科を受診されることもあります。

『はやり目』を疑う場合は、アデノウイルス検出キットにて確認。

小児科や内科では喉のぬぐい液ですが、眼科ではまぶたの裏を擦ります。

陽性ならば、点眼薬を処方し、人に伝染させない注意(家族全員に感染することもある)をし、1週間後に再診します。

 

何十年とはやり目の患者さんを診療して、気になっていたことがあります。

『はやり目』は、一般的には潜伏期が1週間くらいで、1週間後の再診時にはほぼ症状もなく治癒している例が多いのですが…

症状が2週間以上と長引き、回復まで時間のかかる例が、多くなってきました。

 

コロナウイルスと同様にアデノウイルスも変異します。

院長が眼科医になった頃は、『流行性角結膜炎』を起こすアデノウイルスの型、『咽頭結膜熱』を起こすアデノウイルスの型は分かっていましたが、数個でした。

それが…ウイルスの変異とともに、新型がいくつか出現。

その中でも、潜伏期間も長く、罹患期間も長引かせるウイルスが、合併症や後遺症も起こしやすいことが分かってきました。

目やにの他に、角膜にもキズが出来たり、結膜に膜様物が出来たり…の合併症。

やっと治癒しても、当院では数週間後の再診を勧めています。

後遺症で、角膜に点状の濁りが生じ、視力低下を起こすことがあるからです。

 

新型コロナウイルスに感染しても、特効薬はなく、軽症では対症療法(休養・鎮痛消炎剤など)が主になります。

アデノウイルスによる『はやり目』も、実は特効薬はありません。

ただ、他の感染を防ぐために抗生物質の点眼薬や、角膜の濁り(多発性角膜上皮下浸潤)の発生を少しでも抑えるために抗炎症の点眼薬を処方します。

 

そして…ちょっと熱いニュースが!

ヨードの消毒薬(うがい薬で馴染みがありますね)は、ウイルスの膜たんぱくを変性させ、ウイルスを死活化させます。

アデノウイルスを殺滅する点眼用ヨード剤が発売されました。

特に、新型アデノウイルスの『はやり目』に効果が期待されます。

症状の緩和や後遺症の発生低下など。

 

ただし、この点眼用ヨード剤は、医師が処方する薬ではありません(処方箋は出ない)。

要指導医薬品と言って、薬剤師が対面で販売調剤するものです。

眼科医が必要に応じて購入を勧めます。

点眼タイプのヨード剤、眼科医にとってはホットな話題です。

 

こちらもぜひご覧ください

眼科で隔離

 

カテゴリー:眼に関すること

2022.5.31 眼科で隔離

眼科の場合、新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスのように、患者さんを別エリアに誘導・隔離することは滅多にありません。

しかし、眼科で唯一、別場所に移動・(準)隔離する病気があります。

流行性角結膜炎、通称『はやり目』です。

受付時点で、充血・めやにの患者さんで『はやり目』を疑う場合は、念のため、他場所で待ってもらいます。

院長がさっと患者さんを診察しに行きます。

問診(いつから、どんな症状か、熱はないか、周りに似たような症状の人がいないかなどなど)と、眼の状態を診て、疑わしい場合は迅速診断キットで確定診断をします。

まぶたの裏側を綿棒でこすり、アデノウイルの抗原を確認します。

キットの診断時間も短くなり、5~7分くらいで検出されます。

出たら100%陽性(特異度100%)ですが、出なかったから100%陰性ではなく(感度100%ではない)、診察上怪しい場合は、はやり目に準じた説明・治療を行います。

 

流行性角結膜炎は、『はやり目』という通り、非常に伝染性が強い結膜炎です。

家族内や、保育園・学校などで集団感染することもあります。

学校保健安全法では、出席停止になる病気です。

潜伏期間は8~14日です。

子どもから兄弟姉妹へ、そこから親に…と、時期をずらして全員感染の一家も珍しいことではありません。

研修医の頃、はやり目の患者さんから『‘○○眼科では持ち物全部燃やしなさい‘と言われました』と言うエピソードを聞いたことがあります。

当時の感染症に対する恐れもわかりますが、今は、そこまで過激に言う眼科医はいないと思います。

 

アデノウイルスのいくつかの型が流行性角結膜炎を起こすと言われています。

典型的な型以外にも、新しい型が見つかっています。

 

主な症状は、目やに(どちらかと言うと水っぽい)・充血です。

ショボショボしたり、時に発熱や耳介リンパ節を伴います。

片眼から始まることが多いですが、1~数日で両眼に発症します。

初めに発症した眼のほうが、症状が重いことが多いです。

 

アデノウイルスによる特効薬はありません。

しかし、炎症を落ち着かせるためのステロイド点眼と2次感染予防の抗菌剤を処方します。

順調に行けば、治癒するまでに7~14日です。

しかし、充血がなかなか引かない、角膜に傷が出来た、偽膜(ぎまく)が出来た…などの場合は、もう少し長引きます。

また、治癒した後も、1~2週間後してから、黒目(角膜)に濁りが出ることがあります。

小さな濁りだと自分では気が付きませんが、多くの点状の濁りが出ると視力低下を生じます。

治癒しても、念のため2週間くらいしてから、再度受診をお勧めしています。

実際、15年以上前のはやり目の後遺症(角膜の濁り)で、今も治療中の患者さんもいます。

消えたり、出たり…長いお付き合いです。

 

新型コロナウイルスもあって、手洗いが励行されていますが、アデノウイルスもとにかく手洗いです。

眼科医にコンタクトレンズではなく眼鏡が多い理由の一つに、出来るだけ自分の眼を触らない状況を作ることがあります。

院長も、新型コロナウイルス流行と自身の老化(老眼)に併せて、眼鏡にシフトしました。

眼を触る癖のある人は、特に気を付けてください。

夏の風物詩?と言われた『はやり目』ですが、今はどの季節でも起こっています。

 

 

 

 

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