2020.12.8 再び1年生

昨年、日本医師会認定産業医を取得した院長。

 

眼科では、パソコン業務の患者さんが多く来院。

ドライアイだったり、近くのピントが合わなかったり、眼痛だけでなく頭痛や肩こりもあったり…

眼科としての原因、治療はもちろんですが、話を聞いていくとその要因は様々です。

職場環境の問題だったり、運動不足だったり…

眼科以外の興味は広がるばかり…

スポーツ医も産業医も眼科医療を基に、その派生で取得することに。

 

さて、本業ではなくとも、資格は持っているだけでは宝の持ち腐れ。

アウトプットしてこそ。

昨年暮れから、産業医の就職活動を始めました。

産業医の関わる産業保健の目指すところは、ひと(従業員)の作業の適応とその仕事へのそれぞれのひとの適応です。

誰を適切な作業につかせ、どんな作業を誰につかせるか。

 

事業所の規模によって専属産業医か嘱託産業医かが決まっています。

院長は、もちろん嘱託産業医。

 

実は、就職活動は初めての院長です。

大学卒業後、そのまま医局へ。

あとは医局人事で動き、開業。

なので、初めて顔写真付きの履歴書を作成。

動機・アピール欄もしっかり記入。

 

当初、すぐに採用されるでしょうと思いながら応募するも撃沈。

遠いところは…

この職種は聞いたことない…

なんて言っていたら、いつの間にか夏も終わりそう…

自分は、産業医1年生、謙虚に。

ただし眼科臨床医としての実績はあり、人生経験もあり。

これをアピールして?採用が決定しました。

 

担当するのは、スーパーマーケットの系列2店舗です。

どちらも、県内とはいえ、自宅から片道1時間半弱。

勤務日は、当院休診日です。

産業医1年生。

イメージがわく職種に、採用されるだけラッキー。

小旅行と思えば、通勤時間もまた楽し。

 

当日は、約束の約40分前に到着。

スーパーマーケットなので、院長(主婦)には馴染み深いお店です。

職場巡視は職務として行う予定ですが、まずはお客として視察。

広くてきれいなスーパーです。

鮮度もいいし、種類も多いし、名古屋よりいくらか安い。

が、仕事前に買い物はいけません。

ぐるぐるとカートを押しながらも、買うのは、小さくて軽いお菓子くらいに。

出入り口には、お客様の声と店長からの回答が貼ってあります。

店長の顔写真もあり、『この人が、これからお付き合いする方ね~』

 

時間になり、先ほどの店長と本社の総務に初対面。

どんな職種があり、どのような人たちが働いているかを聞きます。

今回のメインは、健康診断結果の事後措置の決定です。

健康診断結果を見て、精密検査をしたほうがいいとか、勤務に差し支えがあるかどうかなどを、判定していきます。

最後に、判定の責任者として『産業医・長谷川公』の判を押印したときは、産業医初日の感慨が…

 

その後は、職場巡視をします。

スーパーのバックヤードを見て歩きます。

興味津々。

良好な点や、改善推奨点などを記載し、報告書を提出します。

安全衛生委員会の議事録も確認します。

あっと言う間の初出勤日でした。

 

『うちの寿司は、鮮魚コーナーで握っているから自信を持ってお勧めします』

店長さんの言葉に、勤務終了後、堂々と?お客として買い物。

夕食はお寿司に決定!

 

初出勤、うまく仕事できたのかな~?

 

後日、聞くところによると、なかなか手際も良かったとのこと。

 

企業(と従業員)のお役に立てられるよう、再び1年生から頑張ります!

 

カテゴリー:健康 公センセの日常の出来事 産業医 眼に関すること

2020.12.1 女医なんですけど…

糖尿病の3大合併症は、『神経』『眼』『腎臓』の障害です。

眼科医は、糖尿病の患者さんに眼合併症が出ていないか、出たらどうするかを考えながら診療をしています。

『HbA1C(ヘモグロビンAワンC)はいくつでした?』(糖尿病のコントロールの指標になる値です)

毎回、尋ねます。

即答する人、血液検査の結果や糖尿病手帳を提示する人、『まあまあだね~』『いいんじゃない』『忘れた』『最近採血していない』など色々です。

眼の合併症では、一番は、網膜出血です。

点状の小さな出血が数個から多数に。

白い点状の斑点が数個から多数に、ベターっとしたものに。

悪い血管が生えてきて、破れて出血を繰り返したり、前方にも出血したり…

軽症の場合は、糖尿病のコントロールをしながら、経過観察です。

進行すると、レーザーで網膜を焼いたり、目の中に注射をしたり、大掛かりな手術をすることになります。

重症化すると、悪い血管が茶目にも生えてくるので、眼圧が上がって、緑内障を引き起こします。

また、白内障も進行しやすいです。

 

数年前から通院中の糖尿病のAさん(70代男性)。

院長:『HbA1Cいかがですか?』

Aさん:『○○(値)上がってしまって、薬が追加になりました』

院長:『あれま~!おやつとか結構食べてます?』

Aさん:『おやつは食べないです。ご飯も1日2食だし…』

院長:『アルコールはいかがです?』

Aさん:『まあ、それは毎晩ですね~焼酎をね。内科の先生には、やめろって言われるけど、これが楽しみで生きているからね~』

院長:『そうですか…1日のお楽しみですもんね~どのくらい飲まれますか?』

Aさん:『いつも3杯かな。水割りかお湯割りだけどね』

院長:『いつもより少し薄目に割るとか、たまに1杯減らすとか…は出来そうですかね?』

Aさん:『そうだね~…』

眼の合併症もなく、視力良好なことも確認。

 

Aさん:『ちょっと聞きたいことがあるんですけど…』

院長:『何でしょう?』

Aさんが話し始めたのは、下半身のお話。

ふむふむ。はい、はい。

Aさん:『糖尿病と関係ありますか?』

院長:『糖尿病による神経障害の影響が大だと思いますよ。加えて、加齢も。糖尿病のコントロールをしっかりして。それから泌尿器科かな…。Aさん、こういう話は内科の担当の先生に話したほうがいいですよ。眼科医より』

Aさん:『そうだけど…(病院の)担当医は女医さんなんで、こういう話は…』

院長:『(目が点!)Aさん、私も女医なんですけど…知ってました?顔、見えてますよね?』

Aさん:『…そうなんだよね~こう先生も女医さんなんだけど…違うんだわ。とりあえず、糖尿病治療頑張るわ。聞いてよかった』

Aさん、すっきりした顔で診察室を退出されました。

 

『女医なんだけど…』の後は?

オバサン(内科担当医は若き女医?)だから?

ちゃきちゃき・サバサバしているから?

医師として、かかりつけ医としての経験と信頼がそうさせたなら大変うれしいことです。

 

名前では男性に間違われますが、見た目で間違われたことはありません。

オバサン院長は、性差を超えて頼りにされる、チャーミングな医師を目指しています。

カテゴリー:公センセの日常の出来事 眼に関すること

2020.11.24 加齢と色覚

先月東京で開催予定の臨床眼科学会はWEBで開催。

約1か月にわたり、14会場4日分の講演を視聴することができます。

 

最近は、高齢化に伴い、人生100年時代に備えるべくの眼科的話題も。

 

一般に『色覚異常』(今は、色の特性ともいう)は、生まれつき網膜(もうまく・目の奥)の視細胞の錐体(すいたい)3種類のうち、どれかがうまく機能していない状態を言います。

世間一般では、赤と緑の区別がつかない、わからないという俗説ですが、実際には、そのような重症型はほとんどありません。

院長も医学を学ぶまで、色覚異常とはそういうものだと思っていました。

小学生の頃に読んだ少女漫画で、ヒロインの好きになった相手が色覚異常(赤と緑を間違う)で結婚をゆるされない…子供に遺伝してしまうから産めない…という悲しい恋のお話を読んだ記憶があります。

その時、初めて色覚異常という言葉を知ったのでした。

医学の勉強をしなければ、いまだに、先入観があるかもしれません。

 

先天性の色覚異常のほとんどの人は、自覚がないまま、支障なく生活しています。

生まれつきで、進行することはありません。

学校の色覚検査をで見つかっても、色の見分け方による注意事項を説明すれば、別段困ることはありません。

また、学校では、誤認識しやすい色の配慮をしてくれます。

ただし、少ないのですが進学制限や職業制限もありますので、自分の特性を知っておくことも大事です。

 

さて、色覚異常は、先天性なので、自分には関係ない…と思う人がほとんどですが、後天的(後から起こる)色覚異常もあります。

網膜や視神経の病気、脳の病気・心因性など、原因は様々です。

病気により起こり、左右眼で程度が違うこと(先天性は両眼同じ)や、自覚があることが後天性の特徴です。

 

白内障も後天性の色覚異常を起こすとして話題になってきています。

加齢性白内障(俗にいう白内障)は特別な病気ではなく、しわと同じように加齢で発症する病気です。

 

白内障が進行してくると、少し黄色味がかったサングラスをかけているように感じます(程度により違いあり)。

また、加齢により、瞳孔が小さくなり、光が入りにくくなるので、若年者より暗く感じます。

スマホの画面の明るさを、院長と息子たちのを比べると歴然。

よくこんな暗い画面で見えるね~と驚き、自身の加齢を感じます。

逆に、息子たちからは、まぶしくないの?と聞かれます。

まだ白内障発症とまではいかないまでも、水晶体(すいしょうたい)の濁りは少しずつですが進んでいることを実感します。

 

気が付かずに、日常生活に支障をきたすようになると要注意です。

例えば、紺と黒の靴下を間違える。

シャツの黄ばみに気付かない。

階段の一番下の境目が(暗くて)分からず、踏み外して転倒。

予防法としては、明るいところで確認する癖を。

階段は、電気を明るくしたり、一番下の段に、目立つテープを貼ると予防になります。

また、ガスの炎の一番先の高熱の部分の青色が見にくくなり、思ったより炎の高さを短く感じ、着火事故につながることもあります。

 

後天性の色覚異常(色の見え方の変化)は、進行します。

原因は様々ですので、色の見え方に変化を感じたら、眼科医にご相談ください。

 

最近、内側が黒布地のバッグは避けるようにしている院長。

狭く暗い空間では、取り出したいものをすぐ出せず、ぐずぐずしてしまいがち。

 

暗い環境・小さな対象物・くすんだ色は間違いを起こしやすくなります。

すべての色覚異常に気を付けるポイントです。

 

が、せっかちなオバサン(院長)も気を付けないといけません。

カテゴリー:眼に関すること

2020.10.20 抗がん剤と眼

『まつげを抜いてほしい』患者さんは、よく来院されます。

多くは、高齢の方で、まぶたの脂肪の減少などにより、まぶたの肉付きが変わり、まつ毛が内に向き、角膜に当たりゴロゴロしてきます。

傷が出来たり、当たる刺激で涙が出ます。

内側から外側まで全体に内に向いている場合は、手術適応もありますが、部分的な場合は抜去することになります。

 

Aさんもまつげを抜いてもらうために来院されました。

初めて診察した時のAさんの逆まつげにはびっくりしました。

1本1本が太くて、いろいろな向きにカールしているのです。

ビューラーの同方向へのカールではなく、明日・明後日・明々後日方向へ『くりくり』

眼科医人生の中で初めて見るまつ毛の形態でした。

しかも、攝子(せっし)でつまむと、根元からはらはらと抜けていきます。

『驚かれたでしょ!?』

『はい、眼科医を割と長くやっていますが、初めてです』

『これ、抗がん剤の副作用なの。しばらく、定期的に抜いてくださいね』

 

眼科では、初診時、眼以外にも、内科的な病気がないか申告してもらいます。

高血圧や糖尿病は目にも大きく影響します。

しかし、癌までは、眼科医に打ち明ける方はほとんどありません。

 

診療後、調べてみると、Aさんの抗がん剤は『分子標的型』

がん細胞に存在する特殊な物質をピンポイントで攻撃する抗がん剤です。

目に関する副作用として、まつ毛が長くなる長生化やバラバラの向きに生える睫毛乱生がありました。

 

何ヵ月か、まつ毛を抜きに来られていたAさんですが、ある日の診察で…

いつものくりくりのまつ毛がなくなっています。

以前より細く短く、しかし、しっかりした本来のまつ毛に戻っています。

『まつ毛、元通りになったでしょ。抗がん剤、変わったの』

抗がん剤の中止・変更でこんなに変わるとは!?またまた、大きな発見でした。

 

緑内障の点眼では、時に、角膜の傷を引き起こすことがあります。

Bさんは、右眼の緑内障のため、眼圧を下げる点眼薬を右眼だけにさしていました。

眼圧下降効果もあり、順調でしたが、ある日、角膜に傷が。

点眼している右眼だけでなく、もう片眼の目も。

点眼薬による副作用ではなさそう…

様子を見ていたところ、次の受診時は『見えなくなってきた』

角膜の表面の傷だけでなく、濁りまで出てきていました。

眼科的に検査しても説明が付きません。

またまた眼科医人生初。

もう一度Bさんに他科の病気を尋ねました。

『そうそう、今、がんの治療してるんだよね』

 

約1か月後、来院されたBさん『前みたいに、見えるようになった!』

診察すると、1か月前の、角膜の傷や濁りはほとんど治っています。

先の抗がん剤が中止になったそうです。

Bさんの抗がん剤は、殺細胞性。

細胞が分裂して増える過程に作用し、細胞増殖の盛んな細胞を傷害します。

 

この手の抗がん剤は、眼科医の中では、鼻涙管(涙が鼻へ流れていく道)が狭くなったり詰まったりして起こる流涙は周知になっています。

そのための手術なども報告されています。

 

院長が医師になってからの抗がん剤の開発・発展は著しいですが、眼科開業医との関わりはほとんどありません。

抗がん剤による眼への副作用(すべての患者さんにではない)を、今回、しっかり勉強しました。

貴重な症例を与えたくださったAさん、Bさんに感謝と引き続きの治療にエールを送ります。

医師何年経っても、学ぶこと多しです。

カテゴリー:クリニックに関すること 眼に関すること

2020.10.6  大手まんぢゅうと緑内障

デパ地下には、地方の銘菓を集めたコーナーがあり、現地へ行かなくても手に入れることができます。

先日、ふらっと立ち寄ると、目につくところに『大手まんぢゅう』が。

よく行くコーナーなのに初めて。

備前岡山の老舗のお饅頭です。

懐かしい~

『大手まんぢゅう』はYさんを思い出させます。

(今でも条件反射で高校時代の remind A of B 構文が出てしまいます…)

 

Yさんは、院長(私)が研修医1年目で担当した緑内障の患者さんです。

もちろん主治医は上にいて、その下に副主治医がいて、その下が研修医という構図です。

当然、主治医がベテランで、以下…となります。

当時、所属眼科は、緑内障で全国的に知られており(今も)、各地から患者さんが診察に来られていました。

Yさんも、その一人。

緑内障を長く患い、かなり進行しており、岡山から治療法(手術)を求めて来院されました。

70代の元美術教師。

絵をたくさん描いておられ受賞歴も何度か。

 

研修医は、担当するといっても、患者さんから勉強させてもらうことがほとんどです。

既往歴や現病歴、今の診断・治療法に至るまで、話を聞きます。

先輩医師のカルテ所見を見ながら、自分でもきちんとした所見がとれるよう、患者さんの目を借りて観察させてもらいます。

ベテランが、さっと診られる所見・病気を、研修医は見つけられないことがほとんどです。

長く診察に時間をかけているから、正確な所見・診断・治療ができるかと言われれば、そうではありません。

患者さんの協力、自身の研鑽・経験があってこそ、診療能力をアップし、やがて時間も短くなります。

診療のポイントが明確にわからない研修医の身では、世間話が途方もなく広がるものの、実は肝心なところが抜けていたりします。

朝の回診前や昼休み、夜など空いた時、土日ももちろん患者さんを訪ね、話をし、診察(の練習)をする研修医です。

そういうわけで、研修医は、患者さんと長い時間を過ごすことになります。

 

『先生、お腹空いてるでしょうから、どうぞ』と病室で差し出されたのが『大手まんぢゅう』

直径3センチくらいの、薄皮に包まれた漉し餡が上品なお饅頭です。

仕事中なので、慌てて二口で食べ終えましたが、小腹が満たされ元気が出ました。

Yさんは、予定通り、手術となりました。

その後、何回か通院されましたが、視力・視野とも、非常に厳しい状態となりました。

 

開業の報告をしたところ、贈られたのが、待合室に飾ってある薔薇の絵です。

『もう自分では描けないし、見えないから、先生の元においてもらえば光栄です』

鬼籍に入られてしまいましたが、待合室の絵は、院長の緑内障の原点の一つでもあります。

 

某大学某科の教授(院長と同年代)と話していた時。

今は主治医が3人制なのだそうです。

経験年数が違っていても、全員が主治医で、連帯責任制とのこと。

昔は、担当は3人でしたが、明らかに立場が違うので、患者さんもそれを踏まえて、話す内容を変えていたのだと思います。

その分、研修医の時に、世間話から必要なことを聞き出す術や、本筋に戻す術、患者さんとの距離の取り方などを学べたのだと思います。

医師の労働時間も大事なことですが、研修医の時にしか出来ないこともたくさんあった…とオバサン院長は思います。

 

お茶を入れ、黒文字を添えて大手まんぢゅう。

上品なお菓子をゆっくり味わえるようになった院長。

研修医からのドタバタも遠い過去のことです。

 

本来なら、今頃は、緑内障学会で九州に出張中の院長。

大手まんぢゅうを傍らに、ZOOMでライブ講演視聴。

WEBだからこそ許されます。

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2020.9.29 色・明るさと交通事故

少し前まで、診療終了直後も『まだ明るいね~』と話していたのに、すっかり日が暮れるのが早くなりました。

 

眼科の患者さんは、視力低下の方や高齢者も多いので、『気を付けて帰ってくださいね~』と願いながら、診療終了です。

 

眼科専門誌の『眼科と自動車運転』の特集から…

 

運転には、様々な要素が絡み合いますが、視力(見え方)というのは、大変重要な要素です。

運転者からは、『歩行者や自転車・標識を見落とさないこと、ナビなどの情報を素早く視認できる』ことが大事です。

歩行者や自転車運転者からは、『自動車運転者から見られるようにする工夫、事故につながりそうな予測のできる視覚情報を素早く得ること』が大事です。

 

まずは、明るさです。

どんな色でも、明るい条件下では視認しやすくなります。

昼間ははっきり見えている標識も、夕方にはかなり見にくくなるのは自明です。

ただ、物理的明るさと、心理的な明るさとは単純に比例しません。

感覚の強さは刺激強度の対数に比例して増大するという法則があります。

例えば、真っ暗な部屋で、灯りをつけたら、すごく明るいという感覚がありますが、その明るさをどんどん上げても「明るくなった!」という感じはだんだん緩やかになるということです。

 

さらに、明るさの感覚は、脳で補正されてしまうこともあります。

例えば、薄暮で周りがかなり暗くなっていても、自分が暗いと感じない(思わない)ことがあります(個人差あり)。

この場合、運転者は「はっきり見えている」と思い込み、歩行者や自転車を見落とす危険が高まります。

 

交通事故は、夕方4時から6時が多く、月別では9月から12月が多くなります。

『人(自転車)は思ったより見えていないし、見られていない』

 

では、工夫できることは?

実験解析結果では、早期ライト点灯・明るい服装で注意が高まることがわかっています。

また、別の画像分析結果では、早期ライト点灯や反射材が有効でした。

目立つ服の色としては、蛍光オレンジや蛍光イエローが見やすく、白と黄色のストライプ、白と赤のストライプとなりました。

洋服の色を蛍光色にするのは、なかなか難しいですが、反射板を利用したり、夕方以降外に出る場合は、白や黄色など明るめの服を着たほうがより安全です。

 

『あと1秒早く視認できれば9割の交通事故を減らすことができる』

 

色やコントラスト(対比)以外には、焦点の合いづらさも関係しています。

度の合ったメガネやコンタクトレンズ装用での運転は、もちろん必須です。

(更新のためだけに眼鏡処方希望の人が、時に来院されます!?裸眼や度の弱い眼鏡で見えていると思い込んで運転しているのは、本人だけです!)

また、白内障やドライアイがあっても、光の散乱などが強くなります。

 

誰でも、夕方~夜間視力は低下するので、出来るだけ、夕方・夜の運転は避けることが賢明です。

眼科医としては、患者さんが交通事故に巻き込んだり巻き込まれないよう啓発・注意もしていきます。

 

高齢者・ロービジョン(低視力・狭視野)患者さんの運転も、今後の大きな課題です。

 

かくいう院長も、夜ランニング中に交通事故に遭った経験あり。

信号のない横断歩道を走って横断中、対向右折車に跳ねられました(運転は高齢者)。

額に小さなLEDライト(ちょうちんアンコウみたいな)を点けていたのに~

跳ねられたのに、『搬送先の病院に知り合いがいたら恥ずかしい…』などと、どうでもいいことを考え『大丈夫です!大丈夫です!』を繰り返した院長です。

幸い下半身の打撲で済みましたが、夜ランニングは、以後きっぱりやめました。

 

『人(自転車)は思ったより見えていないし、見られていない』

気を付けましょう。

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2020.9.7 茶目のケガ

指先を紙でスーッと切ってしまったとき。

わずかに、『痛っ!』

すぐに、血も止まり、痛みも忘れ、それでも指先の一直線の傷が治るまで何度も見てしまう小心者(院長)。

角膜に同じことが起こったら、激痛!です。

 

日々、目の痛い患者さんが来院されます。

『目』が痛い原因も、部位も様々ですが、角膜(茶目)に病変を起こし場合が『痛い』原因、第1位です。

 

その中でも、急に痛みが起こるのは、外傷(ケガ)です。

 

学校医の関係上、授業中に来院する子供に多いのは

『紙の端が目に当たった』

『友達の指が、目に入った』

『定規が当たった』

『砂が入った』

ボールや肘や足も多い(この場合、奥も検査)。

 

大人では

『子供の指が入った』

『てんぷら油がはねて入った』

『木の枝が目に入った』

『猫の爪が入った』

『漂白剤が入った』

『研磨中に鉄粉が入った』など。

 

角膜(茶目)は厚さ約0.5ミリの透明な組織です。

虹彩(こうさい)の前面にあるので、一般には茶目で通しますが、茶色いのは虹彩です。

角膜は表面から5層構造をしており、『角膜上皮』『ボーマン膜』『角膜実質』『デスメ膜』『角膜内皮』からなっています。

角膜上皮には、たくさんの知覚神経が走っており、網目状の集まり(神経叢・しんけいそう)を作っています。

角膜にある知覚神経終末(末梢神経の先っぽ)は、皮膚の約300倍密集しているので、少しの刺激でも痛みをすごく感じるのです。

元々、眼球自体が他の臓器に比べてすごく小さいのに、その傷と言ったら…顕微鏡でしか確認できない程度のことがほとんどですが。

 

 

紙の縁に相当する一直線の傷。

爪の先の形にえぐれたと思われる丸い傷。

こすったせいで起こしたひっかき傷の固まり、などなど。

 

痛みがあっても、範囲が広くても、角膜上皮だけであれば、割と早く、点眼できれいに治ります。

きちんと治癒するまで、決められた用法を守ることが重要です。

鉄粉の場合は、刺さっている鉄粉を取り除きます。

数日経っていると錆も出ているので削り取ります。

 

外傷(ケガ)以外にも、感染性(細菌・真菌(カビ)・ウイルス)、コンタクトレンズによるものもあります。

長期のコンタクトレンズユーザーは、角膜知覚が低下しています。

(初めて、コンタクトレンズを入れる患者さんは違和感・異物感を感じます(特にハードレンズ)。角膜知覚神経叢が正常なら当たり前のことです)

診察時、角膜に傷があっても、少々の場合は、痛みや違和感を感じません。

だからこそ、定期検査で眼科医のチェックを受けてほしいのです。

 

角膜だけにとどまっているケガは、当院で対応しますが、それより奥は、手術のできる施設へ紹介します。

印象的だったのは、釘が刺さったと、来院された患者さん。

速いスピードで刺さったため、眼球形状は保たれていました(視力も出ていた)。

しかし、角膜より奥(水晶体)にも刺さっていたため、紹介。

無事、手術で回復されました。

 

小学校5年生の時に読んだ『春琴抄』(谷崎潤一郎)。

盲目のお琴に仕える丁稚の佐助。

お琴が賊から熱湯を浴びせられ、その顔を佐助に見られたくないと言ったので、お琴を愛する佐助は、両目を針で突き、失明します。

『わて、針で目を突きました』

想像するだけで、ぞっとし、怖くて怖くて仕方がありませんでした。

(今だと、眼科的考察を述べられますが)

 

今では、どんな眼外傷にも動じず、眼科医一筋の院長です。

カテゴリー:眼に関すること

2020.8.25 休校と子供

学会も勉強会もWEB。

出かけることは格段に少なくなった分、眼科以外の講演も気軽にWEBで視聴できます。

緑区医師会の病診連携勉強会もその一つ。

今回は、小児科のお話。

 

コロナの休校措置化で子供(小・中・高校生1417人対象)の生活で一番変わったのは、就寝・起床が遅くなったこと。

ついで、友達と会えなくなった。

外遊びができなくなった。

結果、家ですることが増えた時間は、睡眠(寝る)とゲーム。

 

当然生活リズムが乱れます。

睡眠が増えたというものの、睡眠・覚醒リズムの乱れが生じます。

そして学校が始まっても…

朝、起きられないし、起きれば(起こされると)機嫌が悪い。

朝食が食べられない(食欲なし)。

昼間の居眠り。

ドカ食いで肥満、もしくは不規則な食事で痩せてしまう。

ということが起こっています。

睡眠・覚醒リズムは『光刺激』(太陽の光を浴びる)や『行動刺激』(食事・運動・学校)で調節されています。

学校に行く生活って、子供にとって重要です。

 

パソコン・スマホ・タブレットなどから発せられるブルーライトが、睡眠・覚醒リズムを乱れさせるとして、以前から眼科でも話題になっています。

また、休校下で、スマホやゲームなど近距離で物を見ることが増えたため、近視の増悪も見られています。

 

休校下の生活は、多くの子供たちにとっては、あまり健全ではなかったかも!?

 

加えて、小児科で問題になっているのは、肥満による子供の生活習慣病です。

肥満度(%)は (実測体重(㎏)-標準体重(㎏)) /標準体重(㎏)×100

肥満度20%以上で体脂肪の増加があり、診断基準を満たした場合は、小児肥満症として加療の対象となります。

また、小児でもメタボリック症候群があり、腹囲は小学生で75センチ、中学生で80センチを超えると該当します。

その他、血液検査や血圧が判定項目に入ります。

 

染色体異常や内分泌異常・遺伝など防ぎようのない原因もありますが、生活習慣と食事習慣はとても大切です。

外遊びを1時間以上するかどうか、テレビを2時間以上見るかどうかで、肥満の増減に影響があるそうです。

 

1週間に20時間の外遊びは、近視の抑制効果があることは報告されていますが、外遊びは、目にとっても肥満にとっても推奨されることです。

 

肥満児の健康被害として、

血液検査が正常でも動脈硬化は始まっていること。

また、2型(ふつうは成人してからが多い糖尿病タイプ)糖尿病にも小児時から、なりやすくなります。

肥満児の気管支喘息は難治性ともいわれています。

 

さらに、肥満児は、運動能力も学力も低い傾向があるとのことです。

運動能力は何となく想像がつきますが、学力まで…(ごろごろすることが好きなので、何かに取り組む意欲が減退しているようです)。

 

子供の逆まつげは時々ありますが、多くは、年齢が上がり、顔がシュッとしてくると治ってきます。

しかし、肥満のお子さんだと、瞼や頬の肉付きがよくて、一向に改善しません。

 

地域の眼科である当クリニックでは、多くの小児の患者さんを診ます。

今週は、夏休み最終週。

『あ~夏休み終わってほしくない!』例年の子供たちの声。

今年は、短い夏休みに名残惜しそうな声を聞きませんでした。

 

6月1日から7月31日までに感染が報告された242名のうち、家庭内感染が57%、学校内感染は5%でした。

正しく感染対策をして、『学校生活』が再開・確立されることを願います。

 

こちらもご覧ください。

2020.5.26 ステイホームで見すぎちゃう

2019.7.2 スマホ内斜視

カテゴリー:眼に関すること

2020.7.28 世界が窮屈って?

「朝、目覚めると、世界が窮屈になっていた。」

 

休日の朝、スマホで朗読小説。

出だしのフレーズです。

え?どういうこと?

BGMくらいのつもりで聴き始めたのに、急に頭がしゃきっとしてしまった院長です。

 

 

主人公の女性は、朝目覚めて、部屋を見渡すと、「テレビ画面がやけに小さい」

「テレビを含む視界全体がぎゅっと圧縮されてしまったような感じだ」

何の病気?

小説のストーリーもですが、主人公の病気の描写が気になり、朗読の声を聞き逃さないように集中します。

 

 

「階段を降りようとした。その瞬間。がくっと音がして、あっというまに踊り場まで背中でずり落ちてしまった」

下方視野が相当欠損しているのね。

 

主人公は、NYのメトロポリタン美術館の学芸員です。

「なんだろう。朝からもう何度も壁にぶつかりそうになっている。階段を踏み外したり、壁にぶつかりそうになったり」

階段踏み外しは、下方視野欠損(しかも両眼、重度の)だけど、壁にぶつかるというのは、急激な両眼の視力低下も起こったのだろうか?

 

「自分の周囲のものが、いっせいにじぶんにむかって縮こまってくるような」

これは、求心性視野狭窄(わずか中心だけが見えている)のこと?

 

「視野が欠けている、っていうか。ちゃんと見えていない感じで」

「今朝起きたときから、なんだかおかしくて」

急性発症と考えていいよね。

 

急性発症・視野狭窄(特に下方視野欠損と求心性視野狭窄)

何?朝のくつろぎの時間のはずが、眼科医モードに切り替わっています。

 

診断名は「glaucoma」(グラウコーマ)

 

えー!?グラ(眼科医は略して呼びます)だったの?

緑内障のことです。

約30年眼科医として、特に緑内障には力を入れて診療していますが、小説のような症状が一度に急に出ることはありません。

世界(視野)が窮屈になったという表現も初耳。

 

現代では、緑内障は早期に発見(人間ドッグや他のことで眼科受診の際)されることが多くなり、多くは初期の段階です。

慢性で徐々に進行していく病気ですが、主人公のようにある日まで自覚症状がなく、末期になるまで受診しないことは、まずあり得ません。

初期はもちろん、それ以降のステージでも点眼治療をすれば、進行を抑えることはできます。

点眼治療がうまくいかない場合は、手術をすることもありますが、術式も色々開発され、その成績もかなり良くなっています。

 

 

「ほとんど手がつけられないほど進行してしまっていること。進行を遅らせるための緊急手術を受け、うまくいけばしばらくはしのげる。けれど、完治することはない。いずれにしても、近い将来、視力を失うだろう」と、主人公は眼科医から告げられます。

これも、小説ならではの、眼科医の説明だろうと思います。

 

主人公は、眼科で知り合った弱視の少女を抱き上げて、「ギャラリーの中央へ歩んでいった」

これほど、末期で、階段も転げるような主人公が、子供を抱っこして歩けるのか?

今までの主人公の病状からは考えにくい行動です。

 

揚げ足を取るわけではないけれども、眼科医からすると、「緑内障」に関しては少々残念な描写でした。

 

 

でも、ひとつ新しい絵に出会えました。

『盲人の食事』

ピカソの青の時代。

1903年、22歳の作品です。

目の不自由な一人の男の横顔。

右手で水差しを探り当てた様子。

「どんな障害があろうと、かすかな光を求めて生きようとする、人間の力」

 

その日のうちに、本で購入し読み直しました。

群青 原田マハ

「」は小説より抜粋です。

 

 

 

カテゴリー:公センセの日常の出来事 眼に関すること

2020.7.14 薬飲んでいいの?

時々、患者さんや薬局から尋ねられます。

『緑内障でも、このお薬飲んで大丈夫ですか?』

 

『緑内障』は、眼圧により目の神経が圧迫され、視神経の束が薄くなったり細くなったりして、視野の狭窄や欠損が起こる病気です。

多治見市で実施された調査では、40歳以上の17人に1人が『緑内障』に罹患している結果となりました(2012)。

年数が経ち、ますます高齢化しているので、罹患者数はさらに増加しています。

『緑内障』は早期発見が大切で、しかも、強度近視や家族歴ありなどではリスクが高まるため、40歳以上では、眼科の検診をお勧めしています。

 

さて、他科の薬には、かなり多岐にわたり『緑内障禁忌(使用してはいけない)』の注意書きを見ます。

精神科系の薬

抗てんかん薬

抗パーキンソン薬

循環器系の薬

排尿障害治療の薬

風邪薬、咳止め、かゆみ止め、酔い止めなど市販の薬にも表記されています。

『緑内障』と診断もしくは疑いと聞くと、心配になって当然です。

 

緑内障禁忌とされている薬は、散瞳(黒目が大きくなる)を引き起こします。

散瞳により『隅角・ぐうかく』がより狭まり、眼圧の急上昇が起こるタイプは『緑内障発作』を起こします。

眼圧が高い状態が続くと、視神経が一気に弱り、急激な緑内障の進行となります。

内服薬だけでなく、注意が必要な点眼薬もあります。

 

どのタイプの『緑内障』で禁忌なのか?

鍵は、『隅角』が広いか狭いか。

目の中の水(房水・ぼうすい)は、毛様体という目の中間部で作られ、虹彩(茶目)の前面の端っこから排出されます。

前面の端っこのところは、角度がついており(『隅角』)、この角度が広いか狭いかでタイプ分けされます。

広ければ『開放隅角』

狭ければ『閉塞隅角』もしくは『狭隅角』

無治療の『閉塞隅角』『狭隅角』だと、緑内障禁忌の薬は使用出来ません。

 

眼科では、通常の診療でも、必ず『前房・ぜんぼう』(房水がたまっているお部屋)の深さを見ます。

狭そうであれば、隅角のチェックもします。

閉塞隅角や狭隅角の場合は、緑内障発作予防にレーザーをしたり、中高年以降では白内障手術をします。

そうすれば、緑内障禁忌の薬からも解放されます。

 

ひとくくりに『緑内障』といっても、大きく『開放隅角緑内障』と『閉塞隅角緑内障』に分かれます。

さらに、『開放隅角緑内障』には、日本人に一番多い『正常眼圧緑内障』が含まれます。

『緑内障』診断において『隅角検査』は非常に大切で、診断・治療開始において、必ず実施しています。

眼科にかかって、緑内障禁忌の薬についての説明を受けてなければ、恐らく大丈夫だと思います(個々に対応してください)。

元々視力の良い、遠視の高齢女性は、狭隅角・閉塞隅角のことがよくあります(眼科に縁がないので見つかりにくい)。

 

『前立腺肥大で、この薬飲んでもいいかね~?』

『いいですよ』

『うつ病で出されたこの薬、大丈夫ですか?』

『大丈夫ですよ』

一人、一人患者さんを診て答えます。

心配なことは、何でもお尋ねください。

 

半年前に緑内障(正常眼圧緑内障)診断し、点眼治療中の40代男性Aさん。

すごく体が大きくて、がっちりした体格です。

診療終了後『一つ、質問していいですか?』

『はい、どうぞ』

『緑内障ですが、これ飲んでもいいですか?』

見せられたのは、市販の酔い止め薬。

『全然問題ないですよ』と、開放隅角であることを再度説明。

『よかった~。これで、安心して長距離バス乗れます。小さい時から、これないとダメなんで…』

Aさんがくまのプーさんのように可愛らしく見えました。

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