2025.10.21 ストレスと緑内障

緑内障の患者さんにとって眼圧は気になります。

眼科医はもっと気になります。

当院では緑内障患者さんには毎回院長が測定した数値を伝えています。

 

眼科雑誌にあった外国の論文の紹介。

『心理ストレスが緑内障患者の眼圧に与える影響』

 

ストレス負荷をかけた群とストレス負荷をかけないコントロール群を設定し、眼圧変化を比較検討した研究。

緑内障(原発開放隅角緑内障)患者39例。

21例にトリア社会的ストレステスト(TTST)という強いストレス反応を誘発するテストを仕掛けます。

例えば、病院での採用面接用スピーチの準備を10分以内でするよう指示。

白衣を着た面接官の前で採用面接用スピーチを5分間行うよう指示。

1022引く13の数を順に口頭で回答し5分以内に終了するよう指示。

計算を間違えたら最初からやり直し。

これらのテスト終了40分後にこの試練は研究のためと明かされます(ドッキリみたい)。

 

テスト前後で不安スコア、眼圧、血圧、心拍数、唾液検査。

コントロール群はストレス負荷群が与えられた指示に取り組んでいる間休憩。

 

この結果、ストレステスト実施直後の眼圧は、ストレス負荷群では右4mmHg左4.2mmHg上昇した。

コントロール群は右0.9mmHg左0.8mmHgk上昇した。

ストレスを掛けられた群は有意に眼圧上昇があった。

ストレス負荷群の6割が眼圧4mmhg以上上昇というのがこの研究の注目すべき点。

(4mmHg上昇というのは緑内障診療においては大きな意義あり)

 

40分の休憩後、ベースラインと同様の値に低下した。

 

一過性とはいえ、心理的ストレスは優位な眼圧上昇をもたらすことを初めて前向きにした貴重なスタディと評価されています。

 

血圧と同じように、眼圧も日内変動や日日変動や季節変動があります。

一喜一憂するのは良くありません。

しかし、緑内障は眼圧の変動幅が大きいほど進行しやすいと言われています。

診察での眼圧はもちろん重要ですが、眼圧が落ち着いていても進行する場合、日内変動が大きい場合もあります。

 

また眼球運動により緑内障が進行しやすいという報告もあります。

内転(眼球を内向きに動かす)すると他方向の動きより視神経の変形(画像レベル)が起こった。

また外転(眼球を外向きに動かす)すると他方向の動きより眼圧上昇が大きかった。

では眼球運動を制限すれば緑内障は進行しないのか?

実際眼球運動を制限する手術は報告されています(現実的ではないですが)。

 

緑内障を進行させないためには、日々ストレスを回避すればいい?目をあまり動かさない方がいい?などと短絡的に考える必要、実行する必要はありません。

これらはまだある研究の報告の段階にすぎません。

 

大事なことは、自分の病気・病期を知り、きちんと処方された点眼薬を遵守、定期的に診察を受けること。

心配なこと、気になることは目の前の主治医に尋ねること。

眼科医と緑内障患者さんの目標は、一生見え方に困らないQOL(クオリティ・オブ・ライフ:生活の質)を維持することです。

変わらないのは良いこと。

変化があれば経過次第で対応します。

何十年もお付き合いの患者さん。

頼っていただき有難いことです。

応えるためにまだまだ勉強しないといけない院長です。

熊は回避。白熊↑は歓迎。

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2019.12.3 まぶたがぴくぴく

『まぶたがぴくぴくする』と、心配になって来院される患者さん。

話を聞くと…

『突然起こるんです』

『1日に何回も起こります』

『数秒くらいの繰り返し』

『いつのまにか収まっているんです』

『収まっていたと思ったら、また急にぴくぴくするんです』

などなど。

 

自分の意思に関係なく、筋肉が勝手に動くことを『不随意(ふずいい)運動』と言います。

 

日頃の診療で多いのは、上記のような症状を訴えられる患者さんです。

片眼のまぶたに、限局的であることも特徴です。

目の周りにある眼輪筋(がんりんきん)の不随意運動で、正式には『眼瞼ミオキミア』と言います。

原因は、眼精疲労やストレス・寝不足…など。

ゆっくりと休息を取ると、知らないうちに症状が消えていることがほとんどです。

 

ただし、自己判断せず、眼科的な病気が隠れていないか、診察を受けてください。

 

片側のまぶたや口の動きがおかしいのは、『顔面けいれん』です。

まぶたがぴくぴくするだけでなく、顔半分の筋肉が過度に動く場合は、顔面神経の支障が起きている可能性があります。

原因の精査・治療のため脳外科へ紹介することが多いです。

 

本当の意味での『眼瞼けいれん』は、両まぶたに発症です。

『目が開けにくい』

『目を開けているとつらい』

『目を閉じていた方が楽』

挙句に、『運転が危ない』『歩いていてもぶつかってしまう』などなど。

 

中枢神経系の伝達異常と言われていますが、原因の詳細は不明です。

40歳未満では、向精神薬や睡眠導入剤内服が要因の一つとも言われています。

『眼瞼けいれん』の患者さんは、目が開けにくいだけでなく、まぶしさや不安症状も伴います。

ボツリヌス毒素のまぶたへの注射が第一治療法です。

ただし、数か月で効果が切れてしまうので、再度行う必要があります。

当院ではボツリヌス毒素の注射はしていませんが、『他院で注射したが再発した』患者さんは、効果持続期間が終了したためと考えられます。

また、ボツリヌス毒素が効かない場合もあります。

眼瞼けいれんの専門医は少ないため、かなり深刻な患者さんには、遠方へご紹介することもあります。

 

さて、先日(2019.11.19)『メーテレ』テレビの朝番組『ドデスカ!』で『まつ毛ダニ』のお話をしました。

『まつ毛のきわまで清潔に』とお話ししましたが、まつ毛内側にあるマイボーム腺(脂が出る)を詰まらせるのも良くありません。

目を温めるホットアイマスク(おしぼりでも可ですが冷めやすい)はお勧めです。

涙成分を安定させるので、ドライアイにも有効です。

さらに、リラックス効果が大きいです。

安眠できるので、院長は就寝時にも愛用中。

ストレスによる、『まぶたのぴくぴく(眼瞼ミオキミア)』にもお勧めです。

 

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2019.7.30 見えるのに見えない

小3のAちゃんが、学校からの受診のお勧め用紙を持って来院しました。

視力検査の結果、両眼D、D。

Dは0.4指標が見えないということです。

半年前に当院受診時は、右1.2左1.2でした。

もう一度、視力検査をしてみても、右0.1左0.1です。

矯正眼鏡を入れても、視力は上がりません。

念のため、点眼薬を使って、隠れている遠視がないかの確認もしましたが、遠視・近視・乱視とも問題ありませんでした。

眼球自体の問題はありません。

 

こういう場合『心因性視力障害』を疑います。

目の心身症の一つです。

ストレスが原因で、目に何らかの症状が出ることがあるのです。

視力障害として現れることが多いですが、色覚異常(色の見え方が違う)や眼瞼痙攣、チックとして現れることもあります。

 

眼科医ですが、念入りにヒアリングをします。

家族構成、学校での様子・友人関係、習い事などなど。

保護者と院長がお話をし、患者さんの話はスタッフが聞くことが多いです。

大人にとっては些細なことでも、本人にとっては重大なことであることが多々あります。

家庭内の問題では、『お兄ちゃんだから、お姉ちゃんだから』と、我慢することが多い、上の子の患者さんが多いように思います。

学校では、クラス替えなどで、友人と離れた、新しい友人が出来ない、授業についていけないからつまらない…など。

習い事でびっしり放課後のスケジュールが埋まっていますが、本人は乗り気ではないものの、親の期待に応えようと頑張っている場合。

なぜかピアノの時だけ楽譜が読めなくなる…など。

 

 

また『メガネ願望』から、視力障害を起こすこともあります。

クラスの子がメガネをかけ始めた…兄姉がメガネをかけ始めた…など。

メガネ願望の視力障害に、トリック(眼科医のさじ加減)を使ったメガネを処方すると…

次回、出来たメガネでの視力はバッチリ!です。

自分好みの素敵なメガネを、褒めてあげると、とても嬉しそうです。

『どこも悪くないのに~何で~』と決して本人に言ってはいけません。

 

心因性視力障害では、日常生活は見えるから生活に危険は及ばないのですが、いざという時(例えば視力検査)には、見えないのです。

 

保護者と面談をして、ストレスの原因の解決に向けての対応策や、時には点眼を使いスキンシップを図ることを提案します。

低学年のうちなら、『ぎゅ~』と抱きしめるのも効果的です。

 

たくさんの見えない(視力の出ない)小さな患者さんに向き合ってきました。

ワーキングマザーとして、決して出来た母ではありません(院長)が、自戒も込めてお話ししています。

子供が可愛くない親なんていませんが、良かれと思ってしていることや、無意識な行動や発言が、子供を傷つけていることも少なくありません。

親も精いっぱい、子供も精いっぱい。

時に、繊細な子は、心身症になってしまうこともあるのです。

親が反省することも多々ありますが、自分を認めてあげることも大事です。

特に仕事を持っていると、何か子の問題が起こったとき、『愛情不足?手間かけ不足?』と自分(親)が不安になりがちです。

後から振り返ると、子からずいぶん試練を与えられたけど、乗り切った!と思える日が来ます。(←院長自身のことです)

かかわる時間が少なくても、『大好き!』というメッセージと、子供の話を傾聴・共感することが大事です。

 

『だから、大丈夫です。必ず見えるようになりますよ』とお伝えします。

 

Aちゃんは、骨折でしばらく体育や課外活動ができず、疎外感を持ってしまったようです。

メガネをかけて、みんなが褒めてくれたことで視力も改善。

骨折も治り、元気に活動できるようになったら、メガネをかけることを忘れることも。

 

眼科医ですが、時々、精神科的アプローチをすることもあるのです。

 

 

 

 

 

 

 

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