2021.3.9 眼科もポリファーマシー

患者さんのお薬手帳を確認すると、薬の多いことにびっくりすることがあります。

お薬は、高齢になるほど、増える傾向にあります。

病気の種類が増えるからです。

それぞれの病気に対して、複数の種類の内服薬が処方されます。

都内の75歳以上の通院高齢者を対象に調査したところ、5種類以上の薬を処方された人は64%でした(東京都健康長寿医療センター研究所)。

眼科の患者さんでも、掌にいっぱいになるほどの量を毎回飲んでおられる方がいます。

『薬だけでお腹いっぱいになるわ~』

確かに…

 

多くの薬を併用することで、同じような薬が重複していたり、薬物間の相互作用で副作用がでたりと、身体に悪影響が出ることを『ポリファーマシー』と言います。

高齢になると、認知機能の衰えで、薬をきちんと内服できなかったり、薬の代謝分解機能の低下から、最近は多剤併用の見直しが注目されています。

医師・薬剤師・患者さんの相互理解があって、減薬が実現するのですが、減薬しても老人ホーム入居者の認知機能は維持できたとの報告もあります。

 

眼科でもっぱら処方するのは点眼薬です。

眼科でも、時に、驚くような多剤点眼薬が処方されていることがあります。

 

以前、往診を頼まれた施設入居の認知症の患者さん。

出されていた点眼薬は、抗生剤、炎症を抑えるステロイド剤、炎症を抑える非ステロイド剤、ドライアイの点眼薬2種、眼精疲労の点眼薬2種。

患者さんは、白内障の手術をした後、施設を転々とされていたようで、施設前医からの申し送りのごとく何年も同じ点眼薬を処方されていました。

当の患者さんは、自分がいつ白内障の手術を受けたかも記憶にないくらい。

スタッフは、7種類の点眼薬を、忙しい介護の合間にさしていました。

一日に何種類も何回もさすので、眼瞼は荒れ、めやにも出ていました。

同じ抗生剤を何年も使用していたので、耐性菌(抗生剤に効かない細菌)の有無を確認。

検出された細菌にターゲットを当てた別の抗生剤の点眼薬を処方し、他の点眼薬は全て中止。

すっかり治癒しました。

その後、点眼薬は使用しなくても特に問題は起きていません。

餅は餅屋、目は眼科に!

 

点眼薬をしっかり効果的にさせるのは3剤まで、と考えられています。

点眼薬と点眼薬の間は5分以上空けるのが望ましいので、2剤でも、うっかりしていると忘れてしまうことがあります。

また、種類が多くなることで、薬剤によるアレルギーを起こしたり、まぶたの荒れを起こしやすくなります。

 

緑内障の点眼薬も、進行の程度によっては、多剤併用になっていきます。

しかも、長期にわたり、点眼するので、合併症も出やすくなります。

現役世代も多いので、点眼と点眼の間をしっかり空けると、けっこうな仕事になってしまいます。

そこで、近年では、次々と合剤(2成分が1本に混入)が主流になってきました。

現在では、緑内障点眼薬の主要5成分が3本でカバーできます。

 

多剤併用は、他の病気にも当てはまります。

気になることを一度にカバーしようとすると、何種類もの点眼薬が必要になります。

優先順位をつけて、点眼薬の種類を決めるべきだと考えています。

眼科医の処方する点眼薬は、頓服みたいな何か起こった時だけの指示のものは原則ありません。

1日何回を継続してこそ効果の出るものばかりです。

 

最小の薬で最大の効果を!

最低の眼鏡(コンタクト)度で最高の視力を!

最高のコンディションで最高のパフォーマンスを!

当院のモットーです。

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2020.1.28 花粉と初期療法

1月も下旬、あっという間に2月です。

 

『そろそろスギ花粉症の時期なので…』と、点眼や内服を希望される患者さんが増えてきました。

『また、次のシーズン前に来院してくださいね』の院長の指示に、毎年この時期に来院(再会)される律儀な患者さんも。

 

『初期療法』という言葉が浸透してきたように思います。

『初期療法』とは、花粉の本格飛散開始の約2週間前から、抗アレルギー点眼薬や内服を開始する治療法のことです。

症状の発症を遅らせ(自覚症状が出にくくなる)、花粉飛散ピーク時の症状も軽減させると言われています。

 

眼科雑誌に、ちょうどアレルギー性結膜炎の予防投与の論文がありました。

 

初期療法のメカニズムには3つ考えられていて…

 

①本格飛散の前から少しずつ花粉は飛んでいるので、自覚症状(かゆみなど)はなくても、局所では炎症が起こっている可能性がある。

無症状だけど、水面下で炎症が起こっている状態を早めに抑えることで、本格飛散時の炎症を抑えられる。

 

②アレルギー反応は一度起こると、肥満細胞の脱顆粒(医学用語。俗にいう肥満とは無関係)により激しいかゆみが引き起こされる。

続いて、炎症細胞が動員され、ドミノ倒し的にかゆみが増加。

掻くことで目の表面のバリア機能も低下し、少し(10分の1から100分の1)の抗原(花粉)でも反応を起こしやすくなってしまう。

掻かないようになることで、アレルギー反応のドミノ倒しが起こらないようにする。

 

③抗ヒスタミン点眼薬は、かゆみに即効性があるので、近年処方されている(当院も処方しています)。

インバースアゴニスト活性の高い(医学用語)抗ヒスタミン点眼薬をさすことで、ヒスタミンH1受容体の数を減らし、かゆみを感じにくくすると考えられる。

 

実際、初期療法開始グループと通常療法(飛散してから処方)グループで比較したところ、『目のかゆみ』『目の異物感』『目の充血』『涙目』『目やに』の各項目に置いて、初期投与グループで有意(統計的に)に抑制されています。

また、QOL(生活の質)も低下が認められませんでした。

つまり、花粉の時期も快適に過ごせるということ。

 

以上が論文の大雑把な要約です。

 

『初期療法』は有効なので、1月下旬(今ですね)から2月初旬頃までには、点眼・内服を開始しましょう。

かゆみスイッチを減らすことで、かゆみを感じにくくする作用(予防)のある点眼・内服を開始しましょう。

また、一日何回の用法を守らず(忘れて?)、かゆくなったらさす人が多いのですが、定期的に点眼することで、かゆい感覚を抑えます。

 

今年は、例年よりは少ないと予想されています。

でも、油断は禁物!

東海地区は、2月中旬が飛散開始予測日です。

2月下旬から3月上旬にピークとなります。

 

院長は、スギ花粉に初めて発症の年(開業してから)、散々な目に遭いました。

あの恐ろしさを二度と味わいたくないと、毎年初期療法を行っています。

ゴルフもしばらくお休みです(だから上手くなれない…と言い訳)。

 

スギ・ヒノキ花粉症の方は、ぜひ、早めにご相談ください。

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